小説 | ナノ



おそ松さん
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私、みょうじなまえは学級委員だ。小学高六年生の頃、誰もやりたくなかった学級委員の立候補を友達が勝手にやって初めて学級委員になった。それを小学校六年生から高校一年生の今までずっと続けている。

学級委員になる前の元の私はクラスではどっちかってゆうと目立たない方で、勉強やスポーツがそこそこ出来る普通の女の子でどこにでもいる女の子だった。
でも学級委員になった私は学級委員らしくなろうとそれなりに努力をした。宿題は毎日絶対提出したり、先生の頼まれ事を嫌な顔せずに聞き入れたり……とりあえず良い子を演じ続けた。

その結果、みょうじなまえは頭が良くて成績優秀の良い子ちゃんになった。
みょうじなまえに悩みを相談すればすぐ解決し、頼み事をしたら受け入れ、クラスの皆を引っ張ってくれる皆の理想の学級委員だ。

でもそんなの本当の私じゃない。学級委員の私は私じゃない。本来の私は良い子なんかじゃなくて皆が思っている以上に心が真っ黒に汚れている。
今日だって学校で良い子ちゃんを勝手に演じて勝手に疲れて家に帰る。そんな日々を続けるとストレスが溜まる……まぁ、私が勝手にイメージ作りしているだけで嫌なら嫌で止めるのは簡単なんだけど止めたくても止められない理由が私にはある。


「みょうじさん!」


ほら、こうやって教室の中で面白くない本を読んでるだけで彼が近づいてくれる。
しおりを挟んで本を閉じ、彼の顔の方を見上げて笑顔を作って答えた。


「どうしたの、チョロ松くん?」
「この前の学級会議の話なんだけど、あれ途中で終わっちゃったでしょ?だから今日の昼休み集まって続きやるんだって」
「うん分かった。ありがとうチョロ松くん」
「じゃあ、昼休みにまた」


そう言ってチョロ松くんは自分の席に戻った。

松野チョロ松。あの松野家六つ子の一人の三男。
私とチョロ松くんは小学校は違くて、彼と初めて会ったのは中学に上がった中学一年の時。最初は六つも同じ顔で誰が誰でも同じだとその程度の印象だったが何がきっかけでかは覚えてないけど、気がついたらチョロ松くんだけを見ていた。六つ子の中でチョロ松くんだけ見分けがついた。そう、私は松野チョロ松くんに恋をした。

中学に入っても良い子を続けていた私は勿論学級委員になった。記念すべき一回目の学級会議、私は会議室でチョロ松くんを見た。その時に私は生まれて初めて学級委員になって良かったと思った。そして今年の中二生に上がって、チョロ松くんと同じクラスで、チョロ松くんが男子立候補をしたので、私も学級委員に入った。
中学三年、その年はチョロ松くんはいなくって退屈だった。

チョロ松くんの進学高校は友達の風の噂で聞いた。で、私も同じ高校を受けた。友達からは「最も頭が良い学校にしなよ」と言われ、親からは「目標を下げるな」と願書を出すまで言われ続けた。冗談じゃない……わざわざ頭の良い高校行ってもチョロ松くんがいないと意味がないでしょ?そんなのごめんだ。


「ハァー…やっと終わったね」
「お疲れ様」


お昼じゃ終わらなかったから放課後も学級会議をやった。会議室は少々暑くてチョロ松くんは制服の上着を脱いでいて、もう皆は帰ったけど私とチョロ松くんは片付けをしてた。


「じゃあ、この借りてきた道具返してくるね」
「ありがとうチョロ松くん、よろしくね」


チョロ松くんは借りてた道具の段ボールを持って教室から出ていく。チョロ松くんが出ていったのをちゃんと確認して教室のドアを閉めた。

私は帰る準備を済ませ、椅子に掛かっていたチョロ松くんの制服を持って眺める。


「…ここれがチョロ松くんの制服」


上着を顔に押し付けて鼻で呼吸してチョロ松くんの匂いを嗅ぐ。

どうだ、これが本当のみょうじなまえ。お前達が思ってる頭が良く皆を引っ張ってくれるみょうじなまえは松野チョロ松に恋して、チョロ松くんの服の匂いを嗅いで喜ぶ変態だ。

これを皆が見たら私の事をどう思うのかな?軽蔑して陰口されるのかな…それとも気持ち悪がって校舎裏とかに呼び出されていじめられたりすんのかな?そう考えると皆の期待を裏切った感じがして凄いゾクゾクする。

今チョロ松くんの上着の匂いを楽しんでるが、チョロ松くん帰ってきてしまうから早く止めないといけない。心の中では思ってるのに行動に移せないでいる。良い匂いしてるチョロ松くんが悪いよね、じゃあしょうがない。


「チョロ松兄さん、会議まだな……あ」


声が聞こえ急いで後ろを振り返るとチョロ松くんが……いや、誰か分からないけど六つ子の誰かが立っていた。

しまったと思ってチョロ松くんの上着を後ろに隠した。でももう遅い、コイツにはバッチリ見られている。


「あんた確か……」


何か言おうとしたが、廊下からパタパタ走りながらチョロ松くんが戻ってきた。


「あ、おーい一松。待っていたのか?」


私と一松と呼ばれた兄弟を交互に見ると「何かあったの?」と訪ねる。
チクられると覚悟していたが松野一松は何でもないよ、とチョロ松くんに伝えた。

なにコイツ……バッチリ私がお前の兄の上着を嗅いでいたの見ていただろ。庇うつもりなのか?

何もないなら良いけど…、と言って机に置いてあった荷物を鞄に入れて帰る準備をしていると上着が無いと探し始めたので、落ちていたと適当な理由をつけてチョロ松くんに返した。


「みょうじさん、僕達もう帰りますね」
「うん…また学校で」


お互いさよならを言うが、松野一松が待ってと言った。チョロ松くんが「どうした、一松?」と聞くと「僕みょうじさんに聞きたい事があるんだよね。チョロ松兄さんに聞かれたくないから先に昇降口で待っていてよ」と言い、分かったとチョロ松くんは先に昇降口に向かった。
会議室は私と松野一松の二人になった。コイツが私に話したい事なんて決まっている。


「ねえあんた、チョロ松兄さんの上着で何していたの?」


ほらやっぱりこれを聞いてきた。てかこれしかコイツと話す事無いし。

さて……私には二つ選択肢がある。正直に話すか、とぼけるかの二つだ。ここはとぼけてやり過ごしたいけど、バッチリ見らたので今さらとぼけても意味が無いから正直に話そう。


「チョロ松くんの上着を嗅いでいた」
「へぇー…簡単に話しちゃうんだ。あんたみょうじなまえでしょ?あんたの良い噂は嫌なくらいクラスで聞こえてきてるし、チョロ松兄さんからも聞いてるけど…こんな趣味があったんだ」


私をまじまじ見ながら話す松野一松。

コイツの話を適当に聞いてると私は思った。
何でコイツがチョロ松くんの兄弟なんたろ。きちんと髪を整えて姿勢が良いチョロ松とは違って松野一松の髪はボサボサで猫背。他の兄弟はどんなのか知らないが、これは人としてどうなのかと思う。


「ちょと、ちゃんと聞いてるの?この事僕がチョロ松兄さんに話したらあんたは終わりなんだよ。それともあれ?私とチョロ松くんはお互い信頼してるから僕の言う事信じないと思ってる?」


ちょと期待してた。だってチョロ松くんを含んだ皆私は良い子だと思ってるから。


「正解ですか。でも僕、あんたがチョロ松兄さんの上着を嗅いでいたの誰かに言う気無いから。興味無いんで」
「じゃあ何がしたいの?私を脅してお金を取り上げるつもり?」
「何もしないよ……ただ僕の質問を返してくれるだけで良いよ」


嗅いでいた時どんな気持ちだったのとか、見つかった時どう思ったとか下らない事を聞いてきた。私はちゃんと正直に答えると松野一松は頷き、これでもかとゆうぐらい質問をする。
何回か質問を答えると私は改めてチョロ松くんが好きなんだなぁ、と自覚する。


「じゃあ最後の質問……チョロ松兄さん好きなの?」


なんて質問してくるんだコイツ。私は「好きじゃなかったらこんな事しないわよ」と答えると松野一松はニヤニヤ笑いだした。


「フヒヒ…残念だったね、チョロ松兄さん好きな人いるんだよ」


そう言うと松野一松は会議室を出ていった。


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