お礼文 | ナノ

甘やかす

▼不安になるきみを(ハンター夢:カルト)
 
※原作時間軸

何故分かったのかと聞かれたら、「なんとなく」だとしか答えられない。

普段より落ち気味の視線だとか、少しだけ引きずるような足取りだとか、いつもより抑えた声だとか。そんなほんの僅かの「いつもと違う」何かが積み重なって、あたしに彼の不調を教えてくれた。

「カルト」

探し人はすぐに見つかった。いつも入り浸っている和室で、カルトは何をするでもなく、ぼんやりと座り込んでいた。珍しく足を投げ出しているので、着物の裾が割れて、白い足首が露出している。……女のあたしより色気がある。
あたしの声にはっとした弟は、美少女とも見まがう笑顔を見せてくれた。

「お姉様。何かご用ですか?」
「うん。ああ、いいよ、動かなくて。あたしがそっちに行くから」

立ち上がろうとする弟を制して、隣に座る。すり寄って来たカルトの頭を撫でると、くすぐったそうに笑い声をあげた。

「どうしたの、お姉様?ボクと遊んでくれるんですか?」
「それはまた今度。今日はカルトとゆっくりしようと思って」
「ボクと?」
「うん。……ねえカルト、今日体の調子が悪いでしょ?」

撫でられるがままに笑っていたカルトが、途端に息を飲んだ。きゅっと口を引き結び、落ちつきなく視線をさ迷わせる。目に見えて慌て出した弟が少しでも安心出来るように、頬を撫でる手は止めないでおく。
やがて意を決したように、カルトは上目遣いであたしを見上げてきた。

「どうして分かったんですか?」
「お姉様だもん。弟のことならなんでもお見通しよー……と言いたいところだけど、今のカルトの状態に見覚えがあってね」

いつだったか、イルミやミルキもこんな顔をしていたことがある。
伸ばされた足をさする。和室で足を崩すなんてこと滅多にしないカルトが、そうまでしないといけないほどの痛みなんだろう。

「成長痛、辛いんでしょ?」
「……はい。情けないです」
「そんなことないよ。大人になる上で避けられない痛みなんだから。我慢できないからって落ち込むことはないって。不可抗力よ」
「はい。ありがとうございます」

少しだけ小さな声でカルトが答えた。
職業柄、彼らは痛みに慣れている。とは言っても、それは慣れているというだけで、全く痛みを感じないという訳じゃないのだ。体の中で骨が軋むような感覚なんて、我慢出来なくても仕方がない。

しばらく無言でカルトの足をさすり続けた。効果はないだろうけれど、気休め程度にはなるはずだ。
されるがままでいたカルトが、不意に、あたしの肩に頭を預けてきた。

「姉様。ボク、大人になんてなりたくないよ」
「どうして?」
「だって、こんなにも体中が痛くなるし……大きくなったら、お着物だって似合わなくなっちゃう。せっかくお母様が仕立ててくださっているのに……お母様が、可愛がってくださるのに」

浮かない表情の理由はそれか。
キキョウはいつも本当に楽しそうにカルトを飾り立てている。成長することでそんな母の楽しみを奪ってしまうことを恐れているのだろう。優しい子だ。
カルトが着物の袖を握りしめる。まだまだ細く小さなその指は、きっとすぐに大きくなってしまう。

けれど。

「そっか。……でもね、大きくなってもきっと、キキョウママはカルトのこと、今と同じように愛してくれると思うよ」
「本当?」
「本当よ。あたしが保証する」

例え見た目がどう変化しても、キキョウの愛の前では些細なことだ。それほど彼女は息子たちのことを愛している。彼女と比べれば、あたしのブラコン具合なんて足元にも及ばない。

「見た目なんて関係ないよ。カルトは、可愛い可愛いお母様の息子。あなたは愛されてるわ。自信をもって、胸を張んなさい」
「お姉様……」
「だから、大人になりたくないなんて言わないで。あたし、あなたたちの成長を見るのが、何よりも好きなんだから」
「ふふっ。はい、お姉様」

笑うカルトの肩を抱き寄せる。あたしの腕にすっぽりと収まってしまうこの体も、すぐに大きくなってしまうのだ。

それでいい。大きくなって、立派になって。あたしの愛しい弟たち。
そうして時々、甘えたくなったときは、こんな風にあたしの腕の中に戻ってきてくれればいい。



▼笑顔のきみを(まるマ夢:ヴォルフラム)

※少しだけ未来の話

廊下の向こうから自分を呼び止める声がした。女の声だ。
十貴族であり元殿下でもあるヴォルフラムの名を、こうも気安く呼ぶ女など、母がいないこの城にはひとりしかいない。今代の王妹殿下だ。

立ち止まったヴォルフラムに駆け寄った少女は、満面の笑みと共に両腕に抱えたカゴを差し出してきた。

「見て見て、ヴォルフ、こんなにたくさんもらっちゃった!」
「……お前は……」

声を弾ませる彼女とは逆に、ヴォルフラムは苦虫を噛み潰したかのようにうめく。

「あれ、どうしたの?お腹でも痛い?」
「どうしたもこうしたもない。何だ、その格好はっ?」
「格好?そんなにおかしいかな?」

指をさされた少女は、訳が分からないといった様子で首を傾げた。

「ただの作業着だけど」
「だから、それが問題だと言っているんだ!作業着だと!?なぜそんなに泥だらけなんだ!?」
「しょうがないじゃない。牧場に行ってたんだから、泥もつくわよ」
「ぼ、牧場……」
「今日はね、ブラッシングさせてくれたの!5本角の牛って、最初に見たときはびっくりしたけど、見慣れると格好いいよね。今度は餌やりもさせてくれるんだって」
「待て、待て待て。視察に行っただけじゃないのか?まさか、農作業をしたのか?お前が!?」
「当たり前じゃない。その為に行ったんだから」

あっけらかんと答える少女にヴォルフラムは頭を抱えた。
彼女は何も分かっていない。魔王の妹君が泥だらけで酪農作業をするなど前代未聞だ。淑女らしさの欠片もない。一国の姫君がこんなことをするなんて、世界中のどこを探しても彼女くらいのものだろう。

絶句したヴォルフラムの様子に気づかず、彼女はカゴの中から卵を取り出して見せた。

「それで、お手伝いのお礼にって、これをくれたのよ。卵も牛乳も取れたてなの。木苺もくれたから、今日は今からこれでお菓子を作ろうと思って」

しかも自炊するときた。そんなことは城の厨房係にでもやらせておけばいいのに。

つくづく姫らしくない行動をとる彼女に、ヴォルフラムは深く息をついた。兄王といい彼女といい、彼らの行動はまったくヴォルフラムの常識に収まらない。

「やっぱりクラフティがいいかな。出来たらヴォルフラムにもあげるね」

それでも、こんな風に嬉々として話されては、強く叱ることも出来なかった。
この奔放さも彼女の魅力のひとつだ。そうやって甘やかしてしまう程度には、ヴォルフラムは彼女のことを気に入っていた。

「……上手く作れるんだろうな?」
「もっちろん!楽しみにしててね」

満面の笑みを見せる彼女につられて、ヴォルフラムも相好を崩した。

着飾っていようとなかろうと、彼女の笑顔はいつも輝いている。それならば、より彼女が自然に笑える環境の中にいさせてやりたい。そう思った。



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