うんめいのひと | ナノ

良い子には御褒美をあげよう

 
「明日は非番なんだ」

そう告げると、アメリアは丸い目でゆっくりと瞬きをした後、子供のように無垢な笑顔を浮かべた。

「よかったね。最近忙しかったし、これでゆっくり休めるんじゃない?」
「ああ」

予想通りの返事だったことに、スティーブンは心の中だけで笑った。人を気遣うことができる彼女らしい答えだ。

無事に異界生物の居所を発見し、その取引を阻止したライブラだったが、それで仕事が終わるわけではない。犯罪者の引き渡しに、現場に残された証拠品の押収、表沙汰になってはいけない物品の回収や破壊、それらに伴う報告書の作成など、やらなければならない事後処理が山積みだ。

対応完了には数日を要し、ようやく息が付けると思ったころには次の事件が舞い込んでくる。それがこの街の日常だ。

しかしながら、である。

「それで、君のやりたいことがあれば、それに付き合おうと思って」
「え?」

聞き取れなかったというわけではないのだろう。予想もしなかった言葉に思わず声が出たようだ。
アメリアはぽかんと口を開けている。それからようやくスティーブンの言葉を理解したのか、ぱっと表情を明るくさせた。血色のない肌がわずかに色づいたかのようだ。
けれど彼女はすぐに眉根を寄せ、上目がちに口を開く。

「で、でも、スティーブンは疲れてるでしょう?休んだ方がいいんじゃないかな」
「遠慮しなくていい。これくらいの多忙は日常茶飯事だ。それにこれは君のためにもらった休みでもあるからな」
「私のため?」
「ああ。今回の件は、君のおかげで解決できたようなものだから」

実際、あの時彼女が異界生物を発見していなければ、解決はもっと遅れていただろうし、自分たちも後手に回っていたことだろう。犠牲者の数も桁が変わっていた可能性がある。今回一番の功労者は、間違いなくアメリアだ。

アメリアはイレギュラーな存在であるが、そうであるがゆえに、迅速な事件の解決につながった。
その彼女の働きにいたく感動したクラウスが、2人でゆっくりしてくれと、臨時の休暇をくれたのだった。

だから遠慮しないでくれ、と続けると、アメリアは安心したように頬を緩ませた。

「そう?それじゃあ、遠慮なく。……ああでも、どうしましょう、急にワクワクしてきた!」

両手を合わせてはしゃぐ姿はまるで子供のようだ。普段は分別のある妙齢の女性なのに、はしゃぐと途端に少女の顔になる。

「何でもいいの?」
「ああ」
「ええと、それじゃあ……」

そう言った後も、アメリアはしばらく腕を組んでうなっていた。何かを思いついてはこれじゃないと首を振り、眉根を寄せて思考を重ねる。見ていて面白い。
やがて、期待と不安の入り混じる目でこちらを見上げ、アメリアが口を開いた。

「じゃあね、ええと……映画が見たいな」
「映画?」
「うん!この前、いくつか映画を見せてくれたでしょう?その続編が公開されてるって広告が出ていたから、気になっていたの。前々回の引きで生きているらしい主人公の仇敵の描写があって、最新作にその人が出るらしいって知って、続きが見たいって思ってて!」

彼女の瞳が輝くのを見るのは楽しいと思う。
子供にプレゼントしたおもちゃを気に入ってくれたことに対する満足感に似ている。甘やかせばもろ手を挙げて喜んでくれることが分かっている、そんな相手を構ってしまうのは、人のさがというものではないか。誰だって、自分に好意を持っている相手には甘くなるものだろう。

熱がこもる語りを止め、アメリアがスティーブンを見上げる。

「……どう、かな?」
「遠慮するなと言っただろう」

ころころと変わる表情は見ていて飽きない。つくづく構いがいがある。

「それじゃあ、今夜は前作を見返すか?」
「うん!」

嬉しげに頷いたアメリアに付き合い、過去3作品を見返したスティーブンは、翌日少しだけ寝不足だった。
新作映画の出来は良く、数日後にスティーブンが原作小説を買い集めたほどだった。



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