霧散した愛の言葉



あと10分で時計の針が12を指す頃、携帯のディスプレイが明るく光った。ソファから手を伸ばしてローテーブルに置いてある携帯を手にする。

見てみると由依からメッセージが届いてた。

(起きてる?)

起きてるよ。

そう返したらすぐに既読がついて会話が進んだ。最近あったことや先日の野外コンサート。話が途切れなくていっその事電話しようか、なんて考えていたらいきなり画面が切り替わった。


見ると愛佳からの着信画面。

(ごめん。電話きたからちょっと待ってて。)

そう由依に返信し愛佳からの電話に出た。


「やっほ〜理佐」

夜のテンションなのか愛佳はいつもより明るい声。


「なに?どうしたの?」
「私は今どこにいるでしょう〜」


まさかと思って部屋のドアを開ける。
目の前には携帯を耳に当て嬉しそうににやける愛佳。


愛佳は携帯をパジャマであるジャージのポケットに入れると勢いよく私に抱きついてきた。バランスが崩れそうになるが愛佳を支えながらドアを閉める。
愛佳は部屋に入るとそのまま私の手を引きベッドへと倒れ込んだ。

「ちょっ、と、愛佳」

愛佳へ視線を向けると、つり上がった唇に目を奪われる。気づいた時には愛佳の顔が近くにあって、唇には柔らかい感触があった。

白くて長い指先で優しく頬を撫でられる。
その手つきが擽ったくて私は思わず身を震わせた。

唇がゆっくり離れていく。

「理佐、誕生日おめでと」
「…は?」


一瞬何言ってるのか把握出来なかったが時計に目をやると針は丁度12を指している。


「キスしながら誕生日迎えるって、良くない?」

そう言い、愛佳は満足そうに顔を綻ばせていた。全身の温度がじわじわと上がっていくのが自分でも分かる。


「18歳最後の理佐が会う人も、19歳最初の理佐に会う人も私がいい」


私、独占欲強いからさ。


愛佳は私の耳元に口を寄せそう呟くと、また唇を押し付けてきた。

髪、耳、瞼、喉となぞるようにキスを落としていく。
最後に手のひらに唇が触れた。


この前愛佳が言っていたことを思い出した。

『キスって、する場所によって意味が変わるんだって』


じゃあ今、愛佳はキスにどんな思いを込めてるんだろう。


アイドルにとって恋愛はあってはならないもの。だから私たちは1度も口に出し、伝えたことがない。


愛佳の気持ちが知りたかった。
だからそのキスには意味があるんだって、自分に言い聞かせ、縋り付いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


朝、けたたましくなる携帯のアラームを止め、重たい目をなんとか開けて数件の連絡を目に通す。

23:59に1通のメールが届いていた。



(一緒に祝えなくても、

18歳最後のメールは私だといいな)




『私、独占欲強いからさ』






2017.07.27 risa watanabe birthday novel


...end


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