ノンストップ シュガー


目が覚めると隣にねるがいる。

ねるの顔に差しているカーテンから漏れた柔い光。白い肩にかかる黒く長く綺麗な髪。肌に滑るシーツのざらつきが、昨日の夜を思い出させた。


ベットから足を出し、最近買ったスリッパを履いて洗面所へ向かう。もう10月の半ば、少し肌寒い。


音を響かせないように蛇口を少しだけ上にあげ、コップに水を汲んだ。青色の歯ブラシを見つめながら、カシャカシャと音を立てて歯を磨く。


夢じゃなかったんだ。


歯を磨いたら、キスの感触を忘れてしまいそうで少し嫌だ。そう思いながらも、自然と口角が上がってきてしまう。


ふと鏡を見ると、後ろのドアからひょこっと顔を出すねるが映っていた。太ももに少しかかる丈の薄いキャミをスッポリと着ている。

「なににやけとるん?やーらし」
「…ねるには言われたくない」

歯磨き粉の泡のせいで、もごもごと言葉にならない。

「何言っとるかわからん〜」

そう言いながらも青色の歯ブラシを手に持ち、ねるもにやけ出した。


そんな時間がすごい愛おしくて。
ほらまた。好きな理由がひとつ増えた。



「ねぇ。ご飯かパン。どっちがいい?」
キッチンへと続く引き戸を開けながら聞く。

「え〜、ん〜」

どうしよう、とねるは言いながら、水で口をゆすいだ。蛇口から流れ出る水が少しうるさい。


「まだ時間あるし、ベッド戻ろう?」


質問の答えになってない返答。
そんなところも可愛いなってなるから、惚れた弱みとはこういうこと。


ーーーーーーーーーーーーーー



二人で寝るには少し窮屈なベッド。
触れる素肌があったかい。


朝の光が満ちる部屋に、少し掠れた歌声が響いた。

小さく開かれた唇。
喉に絡んだ声。


「なんて曲なの?」

「今の私の気持ち」


そう言い、ねるは私の指を絡め取った。


「何それ教えてよ」

「分かんなくていいよ」


ねるは、私の指をゆっくりと優しく撫でた。
口ずさんだその歌が、耳に残る。




「大好き」


そう言って、ねるは腰に腕を回して抱きついた。
あなたの一言で、一日が変わるの。

金木犀の香り。嗅ぎ慣れた匂いのはずなのに、いつもとは違うように感じた。


「いきなりどうしたの?」

ねるを覆うように、抱きしめた。

どうにかなってしまいそうで。
もうどうにでもなれって思って。


見えない心が愛おしい。


ねるを抱きしめている腕を緩め、そのまま柔らかい頬を両手で包み、ゆっくりとキスをした。軽いリップ音が部屋に響く。

ねるの唇の感触に、狂おしい愛おしさ、恥ずかしさが湧き出る。伏せた瞼をあげると、ねるは柔らかな黒い瞳でこちらに目線を合わせた。

すると、後頭部にねるの手がまわった。気がつくともう既に、主導権はねるに奪われていた。

唇で唇をこじ開け、探し当てた舌を舌でゆっくり絡める。ねるの息遣いが近くで聞こえ、感じた。胸の動悸が速まり、呼吸が荒く乱れる。

息が浅い。ねるの体温がこれ以上無いくらい熱くて、近くてこのまま溶けてしまうんじゃないかなって心配になった。

目の前がふわふわして、甘ったるい呼吸困難に夢を見た。



「…かわい」

「…もう、ねるやだ〜」

「それでも、全部受け止めてくれるんでしょ?」


なんて嬉しそうに笑うから、私も一緒に笑うの。



ーーーーーーーーーーーーーー


「理佐寝癖ひどくない?」


そう言って、跳ねた髪を撫でながら笑うねる。


「行ってらっしゃい」

忙しい朝が、ねるを連れていく。
小さくバイバイ、と手を振る。

明日もねるの笑顔が見れますように、と手を振る。


......end



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