「へぇー…イバちゃん、こんな仕事してたんだー…」

「……」

「ねえ、私はどんな仕事してたのかな?」

「……」

「過労死したくらいだからよっぽどブラックでえげつない仕事してたんだろうなぁ…あっはは想像しただけでも胃が痛い」

「……」

「ねえーイバちゃーん!」

「だぁーもううるさいっぺ!仕事に集中させてけれ!」

そう声をあげると、シンと静かになる仕事場。周りを見渡すと同時に目を合わせないように一斉に作業音が鳴り響き始める。恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかった。未だに隣でごちゃごちゃと何かを言ってくる○○を持っていたスパナで軽くたたく。
はしごに上りロボのネジをしめる。隣で浮いている○○はネジを締めるところを興味津々といった表情で見つめる。
着々と、グンマ博士の設計通りのロボットが完成していっているようだ。ふぅ、と息をはき袖で額の汗を拭う。このあたりの整備は、このくらいで大丈夫だろう。
はしごから降り、向こう側へと移動しようとするが、○○が先ほどまでネジをしめていた場所から動く気配が見られなかった。小さな声で彼女の名前を呼ぶが、返事はなかった。小さく息を吐き、仕方なく元いた場所にはしごを置き、彼女の近くまで行く。そばで先ほどより小さな声でおい、と声をかけると、ようやく彼女は反応を見せた。

「おい、○○!なにしてんだっぺ、次いぐぞ」

「…え……あ、ごめん、イバちゃん。ちょっと、ボーっとしてた」

「ったく…らしぐねえな、おめが考え事なんて」

「うん……前にも、こういうの、見てた気がしたの」

周りに不審がられないよう、適当にその辺の機材をいじっていた手をふいに止める。

「前にも…?おめ、生前の記憶が戻ってきとんのか?」

「わかんない…わかんないけど、頭がぐちゃぐちゃする…」

頭を抱え目の前の鉄の塊を見つめる○○は、しばらく何かを考えるようにその状態で硬直していたが、ふいに顔を上げ、先に部屋に戻っている。と言うとふらふらと仕事場から出て行ってしまった。
彼女の出て行った場所を少しの間見ていたが、自分の仕事を思い出し、はしごから降りる。
前にもこのような機械に囲まれた世界を見ていた?彼女は開発課の者だったのか?しかし、それなら少なくとも自分は知っているはずだ。そもそも、自分はこのガンマ団に女性がいることすら知らなかったのだから。じゃあ、なぜ。
隊長。と隣から声が聞こえた。どうやら考えているうちに手が止まっていたようだ。部下たちからの自分の安否の問いに生返事をし、作業を進める。彼女のことも心配だが、今は自分の仕事に集中せねば。





気づけば、辺は真っ暗になっていた。グッと背を伸ばすと腰からバキッという音が響く。
下から自分の名前を呼ぶ声が聞こえたので、はしごから降りると部下二人がお疲れ様です、とタオルとコーヒーを一杯持ってきてくれたので、ありがたくそれを手に取り、タオルを肩からかけ、ソファに腰を下ろすと一気に眠気がやってくる。眠気を吹き飛ばすように、コーヒーを一口啜った。イバラキ隊長、と神妙な声で呼ぶ部下を一瞥する。

「なにか、困っていることがあるのなら、いつでも我々が力になります」

そう口を揃えて言った部下達にお礼を言い、コーヒーを飲み干すとその場を離れた。自分は本当にいい部下をもったものだ。

部屋の扉を開ける。しかし○○の姿がなかった。名前を呼ぶと、返事が聞こえた。どうやら風呂場にいるようだ。タオルを机の上に置き、脱衣所のドアを開ける。そこには両手を濡らした○○がいた。

「ああ、イバちゃん。おかえりなさい。お風呂丁度沸いたよー」

「は…お、おぅ…わりいな、○○……幽霊って、風呂沸かせるもんだっぺか」

「んっふふ、最近の幽霊なめちゃいけないよ?あっイバちゃんがお風呂入ってる間テレビ観てていい?」

彼女の問に頷くといやっほう!と飛び跳ねその勢いで居間へと行ってしまった。朝方の彼女の面影は、どこにもなかった。
もしかすると、彼女の勘違いだったのだろうか。と思いながら身体と頭を洗い、風呂に浸かる。身体の疲れがじわじわと取れていくのがわかった。
同時に、がくんと眠気に襲われる。あまり長居すると、風呂の中で寝落ちしてしまいそうだ。しばらく浸かり身体が清潔になったことを確認して風呂から出る。脱衣所の扉を開けると、○○が脱衣所の隅で体育座りをしているのが見えてつい驚きの声をあげてしまう。

「なっなっなにしてんだっぺ○○ー!風呂は覗かねえっつったっぺ!?」

「い、いばちゃん〜…怖いの観ちゃった…今日一緒に寝て……」

「おめのほうが怖ぇわ!一緒に寝てやっからさっさと出てけこんごじゃ!」

腰にタオルを巻きながら○○をドアの向こうへと押し戻す。幽霊のくせに、心霊番組が怖いだなんてとんだおマヌケ幽霊だこと。彼女らしいといえばらしいが。
服を着て頭を拭きながら脱衣所を出ると、○○は布団を頭からかぶりながら心霊番組を観ていた。怖いくせに、観るのは観るのか。ふぅ、と息を吐きバスタオルを洗濯カゴの中に放り込んでテレビを切る。あー!と声を上げる○○に近づき布団を剥ぎ取った。

「いやー!イバちゃん!そんな殺生なッ!」

「うっさいっぺ。俺はねみぃんだがらはよ寝かせえ…」

電気を消して、布団をかぶる。中でもぞもぞと動き回る物体は、俺の隣に来るとギュ、と俺の左腕を抱きしめた。

「うぅ…おばけ怖い…」

「どの口が言ってんだっぺ。どの口が」

小さくデコピンをすると、額を抑え唸っていたがしばらくすると唸り声は笑い声に変わっていた。

「…どうしたっぺ…ついに痛みすらも快感になる領域まで達したか」

「ちっ違うよ!なんだか、こうしてると新婚さんみたいだなー、って」

「んなッ…」

彼女の言葉に、じわじわと顔が赤くなっていくのがわかった。きっと彼女は、本当に何気なく言った言葉なんだろうけど。
ふいと彼女から顔を逸らすと、左腕を抱きしめられる力が強くなった。

「あれれっもしかしてイバちゃん…照れた?照れたの!?やだもうイバちゃんったらーあっこれから帰ってきた時にあれやってあげようか!?お帰りなさいあなたっご飯にする?お風呂にする?それともあ、た、し?って!きゃーあいたたた!ごめんなさい!調子乗りました!!」

「くっだんねえこと言ってねえでさっさと寝ろ!!」

こいつは、本当に成仏する気があるのだろうか。耳を引っ張る手を離し、ため息をついて再び目を閉じた。



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