誰もいないガンマ団施設の裏で1人、膝を抱えて、ため息を吐く。
仕事で失敗してしまったのだ。そのせいでグンマ博士や総帥にしこたま怒られてしまった。
気分が滅入ってしまった時、俺はいつもここにくることにしている。ここは人通りが少なく、静かで落ち着けるから好きなのだ。

ふぅ、ともう一度ため息俯いていた顔を上げた瞬間、目の前の顔につい肩を跳ね上げ少し声をあげてしまった。
俺の目の前にいる女らしき人は俺と同じ目線になるようにしゃがみ、じっとこちらを見つめていた。一体、いつからだろう。音や気配が全く感じ取れなかった。
自分は開発課にいるため戦場に出ることは滅多にないが、人っ子1人の気配を感じることすらできなくなっていては、ガンマ団失格ではないか。
そいつはうんうんと一人で何かを納得したように頷き、突然立ち上がった。


「うーんなるほどなるほど…時に少年」

「せめて青年と言ってほしいっぺ」

「時に青年。トルコのとあることわざを知っているかね?」

「別に言い直さんでも」

「"神は一つのドアを閉めても千のドアを開けている"…つまり、もし一度失敗しても成功のチャンスはまだたくさんあるということだ!だからそんなにちょっと失敗したくらいでくよくよしないで前を向いて歩こう!君の人生はまだまだ長いんだから!」

女はそう言って胸を叩くと高笑いをした。なんだこいつ。変なやつなんだな。ああ、ガンマ団はそういう奴の集まる場所だったか。とにかく、こういう人と関わるのはよくない、と自分の五感が告げている。さっさとこの場を立ち去ってしまおうと思い立ち上がった瞬間、女が奇声をあげた。

「な…なんだっぺさっきからひとりで」

「きっきき君!私のこと見えてる!?見えてるよね!?」

「あーもうなんだこいつッはいはい見えてる見えてる!」

興奮気味に近寄ってくる女を押し戻しながらそう言うと、女は目を見開きパアッと笑顔になった。本当に何なんだこいつ。

「うわっはー!やっと会えた!見える人!ずーっと一人ぼっちで寂しかったの!京都人の人の気持ちが痛いほど分かった!ごめんね京都人の人ずっとぼっち根暗野郎なんて言ってて!」

「おめーさっきから一人でなにぶつくさ言ってんだっぺッ!見えるとかなんとかわけわかんねーこと言って!」

「だって私、幽霊ですから!」

その言葉にはぁ?と呆れた声しか出なかった。本当になんだこいつ。ネジぶっ飛びすぎだろう。幽霊だなんてそんな非現実的なもの、なんて嘲笑っていると、女はちょいちょいと足元を指さすので、その方向を見てみると、女の足は膝から下が完全に消えてなくなっていた。

「は…う、うわああぁ!?なっなっあ、足が…!」

「ね?死んでるでしょ?」

「ね?じゃねえっぺよ!だ、大体、幽霊のくせに触れるし、ぽくないし!」

「幽霊はみんながみんな黒い髪のロングで呪いのビデオを通じてテレビから出てくるわけじゃないんだから…そんな非現実的な…」

「あれは幽霊じゃなくて超能力者だっぺ!あとその言葉は今のおめーに宇宙一言われたくない言葉だ!」

すると女はそりゃそうだ、とケラケラ笑い出した。なんて脳天気な幽霊だろう。本当は、幽霊だなんて信じたくないが。

「そうだ、青年」

「……イバラキ、でいいっぺ」

「イーバのど飴くん」

「そのギリギリなあだ名はやめろぶっくらすぞ!?」

「んもう、ちょっとした冗談じゃん。でも元気になったみたいでよかったよかった!」

そう言われ、ようやく気づいた。先程まで滅入っていた気持ちは、彼女と接しているうちにどこかへ飛んでってしまった様だ。

「……幽霊はこういうことするためにいるもんじゃねえと思うっぺよ」

「べーろべーろばー」

「いまさらかよってかなんだっぺその投げやりなおばけ感!」

すると彼女はくすくすと笑った。その笑顔が綺麗で、なんだ、そんな風に笑うこともできるんじゃないか、とらしくないことを思ってしまう。

「…なぁ、おめは」

「○○、でいいよ」

「○○は、いつからこんな体になってんだっぺ?」

「やだ…いきなり呼び捨て…?イバラキくんたら大胆…」

「本気でいてこましたろかこんきこ」

「うーん…いつだったかなあ。結構前から時間感覚狂ってるから、もう覚えてないなあ」

「…成仏、してえとは思わねのけ?」

「あっはは。成仏かー……したい、かなあ。
生きることは好きだけど、みんなに無視され続けながら生きるのは、つらいよね」

そう少し寂しげに笑う彼女に小さく相づちをうつ。彼女は俺に会ったとき、やっと会えたと言った。今まで死んでから誰一人として彼女の存在に気づく者はいなかったのだろう。

「…幽霊は、未練があるとこの世に居続けるって言うっぺ」

「…へ?」

「お、俺でよがったら、おめが成仏できるように、手伝ってやっても、よがっぺよ」

なんだかこはずかしくなり、彼女から目を逸らしながらそう言った。彼女の驚く声が聞こえた。余計なお世話だっただろうか、と思いチラリと彼女の方を見た瞬間、座っている俺に向かって勢いよく抱きついてきた。

「うおっなにすっぺ○○っ!は、はなれっ」

「イバちゃんっありがとう!すごく嬉しい!」

「イッイバちゃんっ!?なんだっぺそのあだ名っ…いーいから離れるっぺ!むねがっあたっ」

「やだ…イバちゃんったらこんなところでラッキースケベを堪能するなんて…」

「おめ成仏する前にぜっったい2、3発殴っからな!」






「とこんで、おめなんで死んだんだっぺ?」

「過労とエナジードリンクの飲みすぎによるカフェインの致死量摂取」

「うっわえらいシビアな…き、聞くんじゃなかったっぺ…」



1.幽霊ですから
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