「イーバーちゃん!朝だよ、起きてー」

ゆさゆさと彼の体を揺する。しかし少し唸っただけで起きる気配は全くなかった。

そういえば、昨日も夜遅くまで機械をいじっていたんだっけ。私は十二時を回る頃には一足先に部屋に戻り布団をかぶった。幽霊のくせに眠くなるのか、とか幽霊のくせに布団をかぶって寝るのか、なんて野暮なことは聞かないでほしい。

そして今、目が覚めると九時をすっかり回りきっている。しかしイバちゃんは私をすっぽりと抱きかかえながら眠っている。

今日はオフだったかな、なんてぼんやりと考えながらカレンダーを見る。今日の日付に赤いペンで丸が書かれていた。確か、赤い丸は会議のある日のサインだ。

このままでは彼は遅刻確定だ。ぺしぺしとイバちゃんの頬を叩く。少し瞼が震えたがやっぱり起きない。

「イバちゃん、起きなきゃ遅刻しちゃうよ!」

声の音量をあげて叫ぶが、抱きしめられる腕に力が入っただけだった。そんな彼に小さくため息を吐いた。一体何時まで機械をいじっていたんだろう。

そうだ、と思い彼の腕の中から少し抜け出し体を持ち上げる。私は彼の顔にかかっている髪の毛をよけ、鼻をつまむとそのまま彼の口を手で塞いだ。

息が出来ずに苦しくなったのか、彼はううんと喉から絞り出すような呻き声をあげて目を見開いた。

「…んッ!?んんぐッ!」

「はい、おはようイバちゃん」

「…っぶは!!こ、殺す気か○○ー!」

「やだなあ、おはようのチューだよイバちゃん」

「こんな殺伐としたキスがあってたまんかっ!!」

ぜーぜーと肩で息をするイバちゃんの背中をゆっくりと撫でてあげる。

「イバちゃん、今日は会議のある日でしょ?早く行かないと遅刻しちゃうよ」

「え…うっうわっ本当だっぺ!早くしんねえとグンマ博士に怒られちまうっぺー!」

イバちゃんはガバッと立ち上がると急いで着替えの団服を取り出しタンクトップの上から着る。朝から忙しない人だなあと思いながら彼のカバンを取りに行ってあげる。

カバンを手に取る頃には彼はすっかり着替え終わっていた。ご飯はいらないのかと聞くとそんな時間はないと返ってきた。
彼にカバンを手渡す…と見せかけてカバンを後ろに隠す。そんな私の行動に彼は顔をしかめる。

「おい○○、くだんねえごとしてねえでさっさと渡すっぺ!」

「えー…んふふ、これだけやらせて!」

何をするつもりだ、と言わんばかりの彼の肩に空いている手を乗せ、私は彼の口を塞いだ。
触れるだけのそれをすぐに離すと、彼は数回瞬きをし、途端に顔が爆発するのではないかと思うくらい赤面した。

「へへ…いってらっしゃいのちゅー、かな?」

「ん…な…!い、いってらっしゃいっつったっておめ、どーせ俺の後ろついて来るっぺ…!」

口元を手で隠しながらそう言う彼に、そうだったねと笑いながらカバンを手渡した。
扉を開ける瞬間、○○、と名前を呼ばれたので彼の方を見ると、先ほどと同じように、いや、少しがさつに口を塞がれる。

「…………い、いってきます、だっぺ」

ふいとむこうを向く彼に私は湧き上がる感情を抑えきれず勢いよく抱きついた。ろくに受身をとっていなかった彼は衝撃に耐えられずその場に倒れ込んだ。

「んもうっイバちゃん、好き好き!大好き!うんと好きー!」

「なっ…は、離れるっぺ○○!遅刻しちまうっぺよ!」

抱きついたまま頬ずりする私を引っぺがそうとするが、途中で諦めたようで、ため息を吐くと同時に私の頭をポンポンと撫で始めた。それがまた愛しくて、ぎゅうっと抱きしめる力を強くした。

結局イバちゃんは遅刻し、甘党博士にしこたま怒られてしまった。





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