自分の部屋に荷物を置いて、ひとまず休憩。
『久しぶりの神奈川…!』
何年ぶりぐらいだろう。
小4以来だから…5年ぐらい、かな?
父親の仕事の都合上、昨日まで京都にいたけど、やっぱり神奈川の方がいい!
神奈川がいいというのには、いろいろな理由があるけど、一番の理由は…
(精市、元気にしてるかなぁ…)
小4の時からずっと好きな、仲のいい友達のことだった。
今やっと、
(君に会えるよ)
始めてみる立海の校門をくぐると、ほとんどの生徒に好奇の目で見られた。
(誰あの子?)
(あんな子いたっけ?)
(こんな季節に転校生?)
(ふーん。…何か普通じゃね?)
(まぁーなー)
陰でボソボソ話されていることにムカつく。
(あぁ、だから転校とかは嫌だったのに…特に初日とかは)
まぁ、精市に会えるからいいんだけどね!
なんて開き直ってみる。
職員室に向かうと、私の担任だという先生がたっていた。
「あなたは、苗字さんかしら?」
『あ、はい。そうです』
「ふふっ、じゃあ教室に案内するわね」
担任の先生は結構(かなり)美人な先生でびっくりした。
いつか私もあんな風になりたいなぁ…無理だろうけど。
教室に着くまでいろいろなことを質問された。
「そういえば…神奈川に来るのは久しぶり、とか…。前にもここにいたの?」
『そうなんです。小4のときまでここにいたんですけど…親の転勤で』
「へぇ…そうなの。じゃあもしかしたら、知っている友達がいるかもしれないわね」
『…そうですね』
知っている友達。
その言葉に、敏感に反応してしまった。
友達といえば確かに女友達の顔が、思い浮かぶけど…。
一番先に思い浮かんだのは、精市の顔。
小学校に入ってから仲の良かった私達は、俗にいう幼馴染…
というわけではないけれど、腐れ縁のようなものだった。
その頃から私は、精市のことが好きだったのだと思う。
でもこの気持ちに気付かれたくないから、別れる前まで隠し通してきた。
私がここを離れる最後の日、
出発する前に精市が私の家まで来て、私を呼びとめた。
あの日の事は、昨日のことのように鮮明に覚えている。
「名前ちゃんっ」
『せ、精市?』
「名前ちゃん、行かないでよ…!」
『ごめんね、精市。私、もう、』
「じゃあっ、また僕に会いに来て!いつかまた、逢えたら!」
『うん…っ。精市!私の事、忘れないでよ…!』
「もちろん!だから、僕の事も忘れないでね、約束だよ…?」
『うん、約束、ね』
「…さん。苗字さん?」
『あ、…すいません。ぼーっとしてました』
いつの間にかぼーっとしていたようで。
(全然先生の声なんて、聞こえなかった…)
私のクラスは、C組らしい。
精市、いたらいいなぁ…。
まぁ、いる確率なんて限りなく少ないんだけど。
苦笑しながらも、先生の後をって教室に入った。
ガラガラッ
先生が扉をあけると、クラス全員がバッと、こっちに振り返った。
(うっ…視線が!視線が!)
グサグサと突き刺さる視線に試行錯誤している私には、気にするようなそぶりもなく、先生が話を進める。
「はーい。皆聞いてね。この子は苗字名前さん。昨日まで京都の私立中学校にいたんですが、ここに転校することになりました。仲良くしてあげてね。…じゃあ苗字さん。簡単な自己紹介でもしてくれる?」
『あ…はい』
こういうの苦手なんだけどなぁ…。
頭の隅で思いながらも、視線を上げた。
よくみれば、小学校で仲良くしていた友達が数人いて。
『あ…えと。京都から転校してきました。…宜しくお願いします』
「名前だー!久しぶりじゃん!」とか「よろしくー」とか「可愛いねー」、「友達になろー!」とかの声とともに、拍手が飛び交う。
思ったよりも楽しそうで、にぎやかなクラスだ。
その事実に少し安心したけど、視界にある人をとらえて、体が固まった。
あの、優しい瞳。
蒼くて、少しウェーブのかかっている綺麗な髪。
端正な顔立ち。
背はぐんと高くなっているけど、
(精、いち…?)
自分の体が言うことを聞かない。
固まっていると皆に不思議がられてしまう。
そう思っているのに、
視線が、彼を捉えて離さない。
「苗字さん?」
『っ。あ、すいま、せん』
「いえ…気分でも悪い?」
『そんなことはないですから。…大丈夫です』
「そう?無理したらダメよ」
先生が声をかけてくれたことで、体が動いた。
よ、よかった…。
自分の指定された席に向かう。
彼とは遠い席だ。
…本当に精市?
本当に、本当に?
でも私が、大好きな精市を間違うはずはない。
ホームルームが終わった後でも、声をかけてみよう。
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