日吉君が何も言わないから、



少しは心を許されてるんだ、って思ってた。




そんなのはただの私の勘違いで、



本当は、


本当は、







嫌われていたんです。



視界に映る
(それすらも、いけないの)



『日吉君、おはよう!』

「……」

『今日もいい天気だよねー。あ、何読んでるの?…怪談七不思議?』

「………」

『へぇー。日吉君も物好きだよねー』



今、一人でしゃべっているのは私。


別に、日吉君とは仲がいいとか、そんなのではない。


…でも少しだけは、いいかな?


なんてうぬぼれてみる。



私の前の席に座っている日吉君は、いつもクールで無口だ。


これもいつも通りである。

彼はあのテニス部の次期部長候補でもあるし、女子からも密かな人気がある。




…そのうちの一人に私も入るわけなんだけれど。


一度も日吉君は、私と口を聞いたことがない。


…まぁ、大体の女子とはそうなんだけれども。


私だけではない、はず…。


だけど







今日だけは違った。




放課後、中庭の近くでに日吉君を見つけた。


その表情はどこか悲しげに揺れて、悔しそうで。



でも、日吉君に偶然逢えたことが嬉しくて、その時の私は彼の表情に気づくことが出来なかった。




もし、その時に気づいていれば―…




こんなことには、ならなかったのかもしれない。




『日吉君!』

「…!」

『今、部活の休憩中?暑いよねー!あ、ちゃんと水分補給してる?しないと倒れちゃうよ!』

「…」




べらべら喋りまくる私に、いい加減嫌気がさしたのだろう。


「…にしろよ」

『え?』




「いい加減にしろ、って言ってんだよ!」

『っ』

「いつもいつもべらべらしゃべって!迷惑してるのが分からないのか!?」




ドクンドクンと心臓の音が早い。


冷や汗が、止まらない。




初めて話したと思ったら。

怒鳴られて。



それもそうだろう。

だけど、


私を見るその瞳が、とても冷たくて、まるで、




嫌いなものを見るような眼で。




『…っ』


嫌いな、もの。





そうだ。


何故、気付かなかったのだろう。


今まで日吉君が何も言わなかったのは、私の事が嫌いだからなんだ。


『あ…』




私、私、…





『ごめ、ん…なさい…っ』



最低だ。




「っ待、」


急いで中庭からでる。


涙が、止まらない。





何をうぬぼれていたのだろう。



日吉君は私を、迷惑がっていた。



そんなのにも気づかないなんて、





なんて馬鹿なんだろう。










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