「名前、あんな、今週のデートの日、部活の練習が入ってしもて…」
『うん、』
私の彼は忙しい。
「やから、デート、できひんくなった…。ホンマすまん…!」
『ううん、大丈夫だよ』
私の彼は優しい。
「デートは、また今度でえぇか…?」
『…うん』
私の彼は、
残酷だ。
我慢 我慢
我慢
(また今度、っていつなの…?)
***
『今回もかぁ…』
約束をしていたデートを断られるのは、今回で4回目だ。
さすがに、くる、な。
昼休み。
違うクラスの彼から呼び出された。
(デートの話かな)
なんてのん気に嬉しく思っていたけど、蔵の申し訳なさそうな顔を見て、瞬時に悟った。
その顔は、彼がいつも何かを断る時の顔で。
(今回も、ダメなんだ)
***
次の日、家でゴロゴロしていた私の携帯に、新着メールが届いた。
それは、仲のいい友達からで。
Re:デート中なう!
―――――――――――――
やほー
今、彼氏とデート中だよ!
名前も確か、そうだよね?
どう?楽しんでる?
―――――――――――――
そのメールを見た時に、少しだけ胸がチクリと痛んだ。
そうだ、
この子には、行けなくなったことを言ってなかった。
返信することさえ億くうで、ベッドの隅へとケータイを放り投げた。
『…っ』
本当は今頃、私だって、蔵とデートしているはずなんだ。
買い物に行って、映画を見て。
久しぶりのデートを楽しんでいるはずなのに。
蔵にずっと言えないことがあった。
“さびしい”って、言うことが出来なかった。
部活で忙しい彼は、休みなんか滅多になくて。
だからその分、私と会う時間も無くなるわけで…。
少しだけで良かったの。
メールをしてくれるだけでいい。
電話をしてくれるだけでいい。
些細なことだけでも私は、それだけでいいのに…。
たかがデートぐらいで。
そう思われるかもしれない。
“たかが”
そう、
“たかが”、ね…。
ベッドの上で、膝を抱え込む。
蔵が何かを断る時、
…例えば、デートを断る時とか。
私は、
いいよ。とか、大丈夫。とか、気にしてないよ。
それぐらいしか言えなかった。
ここで、嫌だなんて言ったら、蔵は困ってしまうもの。
それ以前に、嫌われる、そう思ったから…。
prev|next