「名前」
『なんですか?』
部活の帰り道。
ふと幸村先輩がつぶやいた一言で、始まった。
「日曜日、遊園地にデートしに行こうか」
年の差なんて、関係ない!
(え、え!?いいんですか!?)
『幸村先輩!次はあれ!あれ乗りましょう!恐怖のジェットコースター!』
「クスクス。いいよ。乗ろうか」
『はい!』
あの宣言通り、私達は今、神奈川のある遊園地に来ている。
ここはジェットコースターがすごい、と評判のところで、今日それを全部、制覇するつもりだ。
「ふふっ。楽しいかい?」
『もちろんです!すごい楽しいですよ』
なんたって先輩と一緒なんですから、なんて心の中で付け足した。
一通り、ジェットコースターを制覇した後、やっぱり疲れたので近くにあるベンチに座った。
「何か食べたいものとか、ある?」
『食べたいもの、ですか?うーん…。強いて言うなら、アイス、ですかね…』
「分かった。じゃあ買ってくるよ」
『え!?いいですよ!自分で買ってきますから』
「いいんだよ、俺がしたいだけなんだから。名前は、そこにいること」
『…はーい』
有無を言わせない。
それは先輩の特徴でもある。
先輩がいなくなった後、今までの事を思い出した、今更ながら、顔に熱が集中するのが分かった。
あー、もう、本当にかっこよすぎるんだよ、幸村先輩は。
一緒にいるだけで、心臓バックバク!
もう、持たないかもしれないくらい。
私がこけそうになった時は、助けてくれるし。
お化け屋敷の時は、怖がらないように、ずっと手を握ってくれたり…。
ああ、もう本当に幸せ!
先輩が買ってきてくれたアイスを食べているときに、
「名前、」
『はい?』
「ついてる」
『へ?』
ぺロッ
私の左頬についた、アイスをペロッと舐め上げた。
『――ッ』
舐められたときの私は、恥ずかしさやらなんやらで、頭が沸騰しそうになった。
「ははっ、可愛いなぁ、名前は」
そんなことを言われ、更に顔が熱くなった。
***
「じゃあ、最後にはやっぱり、アレ。乗ろうか」
先輩が指差したのは、カップルで定番の乗り物。
『観覧車、…ですか?』
「うん。嫌?」
『ぜ、全然!!寧ろ本望です!』
本望、って…
自分で何言っているんだろう。
そんな私と対照的に、先輩はずっと、優しく笑っていた。
『た、高い…!』
ゆっくり、ゆっくり、と高くなっていく観覧車に、私のテンションも徐々に上がる。
「やっぱり締めは観覧車だよね」
『はい!』
そう、カップルで遊園地といったら観覧車なわけで…。
やっぱり、恋する乙女は考えてしまう訳です。
頂上でキスをすると、永遠に結ばれるとか…。
迷信かもしれないけど、してみたいなー、…なんて。
「俺さ、してみたいことがあるんだけど」
急に問いかけた、幸村先輩にびっくりする。
もうすぐで、頂上になる。
『なんですか?』
「頂上で、キスしたいんだけど」
『……は!?』
思わず素っ頓狂な、声をあげてしまった。
「あ、嫌だった?」
『そ、そんなんじゃなくて!』
もしかして心が読まれていたか、と心配になっただけです!
「してもいい、かな?」
子犬のように首を傾げる先輩に何も言えなくなる。
(いや、したい、けど!や、やっぱ恥ずかしいし…!や、でも…!)
『お、お願いします…』
恐縮するように頭を下げると、
幸村先輩の、綺麗な顔が近づいてきた。
確かに、「愛してる」
そんな風に聞こえた。
唇と唇が重なり合った瞬間、
『ん…っ』
少し開けていた遠目で今が、
(頂上だ…)
なんて頭の片隅でつぶやいた。
(う、っ…やっぱ、恥ずかしいです…)
(もう、名前は可愛すぎるってば)
(そ、そんな…っ。先輩なんて、ホントかっこよすぎですよぉ…)
(―ッ。(あぁもうこの子、なんでこんなに俺を煽ぐかな。可愛すぎるよ、本気で)
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