「幸村くん!あ、あのっ…これ…」

「ありがとう」




今日は誰もが楽しみにしているバレンタインデー。




もちろん私も楽しみにしていたんだけど…。






『また、…か』






彼氏が嬉しそうな表情で他の子からプレゼントをもらうところなんて、









見たくなんかないよ―――。









甘酸っぱい嘘つき
(私なんて、まだあげてないのに…)


精市のために用意した、チョコに目を落とす。

そして他の子のプレゼントを見てみる。




『…』








美味しそうだな、他の子の。





女子らしいラッピングまでしていて、見るかぎり美味しそうだ。





それに比べて私のは…








料理が上手くない私なりに頑張って作ったチョコ。





私から見ても、




あんまり美味しそうには見えない、かな。






『…はぁ』




やっぱり精市もあんな可愛らしいのがいいのかな。









…私の、ちゃんと受け取ってくれるかな。









すごく不安になって来た。



精市のことだ。



受け取ってくれることには違いない。




でも、心の中では嫌だと思うのかなぁ…。





グシャ


無意識で手に力を込めてしまったため、反動でチョコが少し割れてしまった。


『あ…』






やっちゃった…。




…でも、これで精市は受け取られずに済むんじゃない?


きっと嫌な思いで受け取られずにすむ。





そうだ。


そうだよ。




無理やり自分を納得させる。


うん、これでいいんだよね。









「名前?」






そんなとき、背後から精市の声がした。





『あ、精市…』




「ん、ごめんね?待たせて…」





見ると彼の両手にはたくさんのチョコ。


持てきれない分は紙袋にぎっしり詰まってる。



(…)





なんか、なんだろう。





他の女の子たちがうらやましくて、たまらない。






『大丈夫。そんな待ってないし』






行こうか、そう言うと





「…名前から貰ってないけど」







核心をついてきた。




あ…。



どうしよう。





やっぱりここは、




『え、と…。作り忘れちゃって…』





見苦しい言い訳。




見抜かれるって分かってる。




それでも今のこの時間を抜け出したいと思った。







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