『おじゃましまーす…』
「どーぞどーぞ」
親友宅に足を踏み入れると、ギシと足元で音が鳴った。
「ごめんなー、この家古いんよ」
『へぇ…。いいね、なんか』
「そう? あ、うちの部屋は階段突き当たりやから、先行っとって」
『分かった』
今日は久しぶりに部活休みだね、じゃあうちの家来ぃへん?
そんな友達の名前の口車に乗せられて、初めて彼女の家に足を運んだ。
彼女の家は思ったよりも大きくて、お金持ちなのかな、なんて思ったり。
トントンとテンポよく階段を上がると、大きな黒い影が目の前に。
『うわ…っ』
思わずびっくりして後ろに下がるとそこには床がなく、ズルッと重力によって階段へ落ちていく。
あ、やばい。私落ちる。そう理解したときにはもうすでに落ち始めていて。
でも伸ばされた手によって腕をつかまれ、階段から転落死、というフラグは避けられた。
(し、死ぬかと思った…!)
今だ心臓がバクバクいっている。冷や汗までかいてるし…!
あ、そうだ。誰か助けてくれたんだよね。
お礼言わないと…。
頭が冷静に落ち着いたところで、顔を上げる。
『あ、あの、助けてくれてありがとうございまし…た…』
『いえいえ! いきなり目の前に現れた俺が悪かったので、苗字さんのせいではないんです」
ポカン
開いた口がふさがらない。
目の前にいる男の子はそれはそれはイケメン君で。こんなイケメン君に助けてもらったんだ…。重かっただろうに…ごめんなさい。
彼の容姿は、女の私よりもずっと美人。睫毛なんて私よりきっと長い。その上ミルクティー色の髪の色に高身長。
あれ、もしかしてこの子…。
『蔵ノ介…くん?』
「はい。初めまして。姉貴のお友達の苗字さんですよね?」
『そう…です。…よく私の名前知ってたね』
「姉貴がいっつも苗字さんの話するんですよ』
『そうなんだ…』
話しながらも私の目線は蔵ノ介くんに集中。ずっと人の顔を見てるのって失礼かもしれないけど、この子の場合は何故か逸らせないのだ。
下からドンドンと駆け足で上ってくる足音のおかげで彼からやっと視線をはずせた。
「あー! 蔵、アンタなに名前のこと口説いとるん!?」
もちろん上ってきたのは友達の名前で。手にジュースを持っている。
『ち、ちち違う! 口説かれてなんかないよ!』
こんなイケメンが私なんかのことを口説いたりしません。
「口説いてなんかおらんし!」
「ホントかいな? 怪しいわ…」
「馬鹿姉貴」
「なんやて!?」
ギャーギャーと口喧嘩をはじめる白石姉弟。仲良いね…。
ちょっとお邪魔かな、と思い友達の名前の部屋に入ろうとすると、蔵ノ介君も友達の名前を振り切って自室に入ろうとしていた。
こそり、
彼女には聞こえない程度の声で、彼は私に向けて微笑みながら言った。
「また今度、名前先輩」
また、今度…? 多分彼はそういったはず。しかも名前先輩って…。
どういうこと、と聞き返そうと思ったものの彼は既に自室に入っていた。
「あーもー。ホンマ腹立つわ、あのクソガキ…!…ってどないしたん? 名前、顔真っ赤やで」
『へ!? そ、そう!?』
「おん。…えらく行動も挙動不審やけど」
『き、気のせいだよ、うん」
「そうか? まあ、ええけど。ほな、部屋入ってーな」
『うん…』
ごめんなさい、顔が赤いのは否定できないです。
いつ彼女に打ち明けようか。
私は、彼のあの笑顔に、ハートを打ち抜かれてしまったようです。
恋の季節がやってくる
(名前どないしたんやろか。…顔真っ赤て、まさか…!?)
title by 確かに恋だった様
弓琳様様へ→
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