『ね、ちょっと仁王…どいてよ』
「嫌じゃ」
『嫌じゃ、って…』

私が立っているのは壁と仁王の間。顔の両側には彼の腕。そう、いわゆる壁ドン、である。
―…どうしてこうなったんだっけ。
話は数分前に遡る。

「…ほうほう。で、これは?」

誰もいない3−Bの教室で、放課後に私達は居残り補習をさせられていた。
何故かというと、二人揃って社会の成績が悪かったからだ。

『えー…それは…。わかんない』
「わかんないとかやめろ、ほんまに。これ合格しなかったら俺ら卒業できんぜよ」
『まじでか。それはやばいねー』

教科書をペラペラとめくるが、本当に分からない。お手上げだ。

好きな人、片想いの相手との二人きりなんてたまったもんじゃない。
今心臓がドキドキドキドキいってるけれど、当の本人はそれに気づくはずもない。
かけひきが上手なひと、がタイプだなんて。そんなの限られるけど、残念ながら私はそうではない。というかかけひき上手って何。
加えて私は愛想がないというか、とことん悪い。友達同士にもツンケンしてしまうし、コイツ。――仁王雅治にも愛想よく笑ったことなど一度もない。笑いたい、けど。どうしてできなくて。それに好きな相手だと尚更緊張してしまって…。

「そういえば」
『何?』

さっきまでだるそうに補習をしていた彼は、持っていたシャーペンを机に置き、急に真剣な顔つきになって私を見つめた。
…たまにあるのだ、こういうのが。
さっきまで暢気に笑っていたと思ったら急に真剣な顔になるとか。…まったく意味が分からない。というか、いきなりそんな顔にされるこちら側の身にもなってほしい。心臓に悪い。

「…今日、C組の友達の名前から告白された」
『っ。…それで?』

平静を装え、私。動揺するな。いつものことでしょう。仁王が私に告白された、なんて報告をしてくるのは。

「付きおうて、って言ってきた」
『そう』

友達の名前とは確か、幸村と仲のいい女子だった気がする。
そうか、彼女は仁王のことが好きだったのか。てっきり幸村がターゲットかと思っていたけれど。
…勝ち目なんて、あるわけないの。友達の名前さんは綺麗だ。それに性格もいいと聞く。これに仁王が好きにならないというほうが可笑しい(だって仁王は綺麗な人が好みだもの)




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