※大学設定
なんとなく分かっていたことだったけれど、いざそうもなると悲しくなるのが身にしみてわかった。
今日は、私と精市が付き合い始めて1年目の記念日だ。
大学を通じて知り合い、付き合うまでに発展した。知り合うというか、元々大学のテニスのサークルに入って有名だった彼を私が勝手に知っていただけなのだけれど。
今日もサークルや課題で遅くなるんだろうな
そんなこと分かっていた。お互いレポートも出さなければいけない時期だし、サークルで大会にもでるという。
今日の為に早く大学を出て、ささやかだけど記念日らしく豪華なものを作ろうと意気込んで買い物に出かけた。食材も買って準備もして。やっと出来上がったと思ったときにはもう20時くらいだった。
チッチッ、と小さく時計が鳴る間、私はテレビを見たり、雑誌を読んだり。精市が帰ってきて、この食卓に並ぶものをみて驚く姿を想像したり。
いつもは21時半過ぎには帰ってきてくれるはずの彼は、まだ帰らない。
どうしたんだろう。事故にでもあったのかな。不安になりながらソファに座り続けているともう既に時計は24時近くになっていた。
『…きっと夜ご飯食べちゃったよね』
さすがにこの時間にもなって夕食を食べないというのは可笑しいだろう。
でも、食べてきてないと彼が帰ってくるかもしれない。そんな思いに少しだけ期待して、なるべく豪華そうな料理はラップをかけて冷蔵庫に入れておいた。
カタン、と玄関のほうから物音がした。
精市? そう問いかけようとしたけれど、何故か声はでなくて。
「ただいま。…ごめん、遅くなっちゃって。起きてたのかい?」
やはり物音を発したのは精市だったようだ。
『お帰りなさい。精市が帰ってくるの待ってた。夜ご飯、食べた…?』
食べてない
そんな答えを期待していた、けど。
テーブルの上に目をやった精市が困った顔をしたのを私は見逃さなかった。
「すまない。食べてきた…」
『そっか』
じゃあ、片すね。そういって先ほどと同じようにラップを掛ける。本当にすまなさそうに謝る彼。
もう謝らなくて、いいのに。
『っ、せいいち』
シャワーを浴びてすぐ寝ると言った精市に問いかけてしまった。聞かないほうがいい、とわかっていたはずなのに。
「なんだい?」
『今日、さ。…誰と夕食食べた?』
「友達の名前さんと食べてきたよ」
『…そう』
友達の名前、さんか。
私との記念日を忘れて他の女の人と食事ね…。
ドロドロと沸き立つようにあふれた嫉妬心を、彼にばれないように、笑った。
友達の名前さんは、精市の入っているテニスサークルの人だ。あまり見かけたことはないけれど、優しそうで聡明で。どこか精市と見ているな、と思ったことがある。
噂で精市と友達の名前さんの仲が急接近してるらしい、というのを聞いた。それは随分最近のことで。
当初はそんなはずないと強気でいたけれど、今になると分からない。分からないよ。
不安で不安で仕方なくて。彼が私のことをちゃんと想っているかも不安で。
夜だって眠れないのに。それに今日のこと。ああ、絶対に今日も寝れやしない。
彼がシャワーを流している音がする。
『片付けなきゃ』
ラップに包まれた料理を手に取り、冷蔵庫へと足を進める。
途中、ポタポタと手に甲に水が滴り落ちた。
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