昨日、周助と喧嘩をした。事の発端は思い出せないぐらい些細なことで。
普段穏やかで優しい彼が、私に声を荒げたのなんて初めてで。声を荒げられたとき、思わずびっくりして彼を見たけど、周助自身も驚いたようで普段は開かない目を見開いて、私の前から去っていった。
私達は1年前から同棲をしている。昨日のことから私は自分の部屋からお風呂や食事のとき以外出ていない。だから、今周助がどこにいるか何をしているか、なんて私には見当もつかないし分からない。
…謝りたい、って思う。だけど、どうしても出来ない。元々意地っ張りっていうのもあるけれど、謝れないの。
どうしよう。これで謝れないと、どうなっちゃうの? 長時間この状況が続いてしまうと、いずれ周助が「別れよう」って私にしびれを切らしてしまう可能性だってある。
『…とりあえず落ち着こう』
台所にでも行って、水でも飲もう。そう思って自分の部屋からでた。
カタン
深夜の部屋に、私が部屋へ踏み入れた音が響く。多分いないはず、とこそこそ冷蔵庫をあげようとしたら、
「――名前?」
びくっ、思わず肩が大きく揺れる。後ろを振り返ると、ソファに座っていたであろう周助がいた。
『しゅう、すけ…』
なんで、いるの。そう尋ねようとした声は、掠れてでなかった。
ゆっくりと近づいてくる周助。なに、なに? 何かを、言うの?
別れようなんて言われたらどうしよう。私は、別れたくなんかない。だって好きだから。でも、私はいつも彼を困らせてばかりで…
ぎゅっと強く目を閉じた、と同時にふわりと甘い香りがする。抱きしめられている感触。
この香りは周助…?
いきなりのことで頭が追いつかない。何で抱きしめられているんだろう。
『しゅうすけ?…どうしたの?』
「―ごめんね、名前]
小さく呟かれた声。いつもの彼ではないような。
「最近さ、イライラしていたんだ。…仕事でも上手くいかなくて。それで、昨日の喧嘩のとき当たってしまったんだ。…本当にごめんね、すまなかった」
『周助は悪くないよ…。だって私だって意地張って謝らなくて…』
「ううん、名前は謝らなくていいんだ」
私の顔の高さをあわせると、彼はチュッとおでこに軽いキスを落とした。
「いろいろとごめん。…もう遅いから、寝ようか。今日は一緒に寝るかい?」
『…うん』
ギュッとつながれた手はまるで離さないとでも言うように、私を離しはしない。
仲直りできたことからだろう。重い荷が下りたように気持ちが軽くなった。
ごめんね、周助。大好きだよ。そう心の中で呟いて、つながれた手を強く握り返した。
甘いよりもしあわせな
title by 確かに恋だった様
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