『蔵ノ介ー』
「なん?」
『…なんでもない』

電話越しの彼は、少しの間を置いて、「さよか」と優しい声を呟いた。

『(会いたいよ)』

なんて言葉は軽く言えないけれど。少しでも彼は、私と同じ気持ちなのだろうか。

私と蔵ノ介は今現在、遠距離恋愛中だ。
私は中学まで四天宝寺にいたけれど、高校に入る前に親の転勤が重なって、神奈川へ引っ越すことになったのだ。
蔵ノ介はそのまま大阪の高校へ進学。今は、医療系の大学を目指しているらしい。

遠距離恋愛を甘く見ていたのかもしれない。…いや、きっとそうだ。だって今、こんなにも後悔しているんだから。
「遠距離なんてへっちゃらだよ」、そういっていたあの頃の自分に言ってやりたい。
へっちゃらなんかじゃないんだよ、って。すごく、すごく、寂しいんだよ、って。

「俺なあ、すごく名前に逢いたくてたまんないんやわ」
『…っ』

ドキン、大きく胸が動いた。

「ずっとずっと我慢してるんやけど、メールとか電話だけじゃ、足りひんのや。本物の名前に触れたくてしゃあないん。……名前はどうなん?」

私はどう、って…。分かってるくせに。気づいてるくせに聞いてくるなんて、ずるいよ、ホント。

『逢いたい、よ…。蔵ノ介に逢いたい…っ』

だけど、会えないの。
高校生の私たちがそう簡単に会えるはずがない。
ねえ、わがままなのかな。貴方に逢いたいって言うのは。

「ありがとう。でも、もう少しの辛抱やから。大学はそっち行く。必ずや。…やから、待っとって」
『待ってる。絶対に待ってる…!』

そうだね。あと半年したら、蔵ノ介に会えるんだもん。
だからそれまで、私も我慢しなくちゃ。

『ねえ、蔵ノ介』
「…ん?」
『蔵ノ介がこっちに来たときに、
私のこと、絶対に離さないでね』

「当たり前や」、そう断言した蔵ノ介の声に、酷く安心した。

ギュって私を抱きしめて。
名前を呼んで。
キスをして。
お願いだから、離れないで――…。

そうしたらもうずっと、離れることなんてできないのだから。

いつだって手放しで
甘い恋に酔い痴れている

(そういえば、もうすぐで練習試合でそっち行くらしい)
(え、)

title by 確かに恋だった様

 
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