「小春ぅー!」

語尾にハートでもつきそうなぐらいな、うざったい笑顔を浮かべて小春ちゃんに突進していく彼。
小春ちゃんは小春ちゃんで、ものすっごく嫌そうな顔をしている。

(…ご愁傷さま)
なんて思っている私だけど、実はちょっと羨ましかったりする。


恋する乙女
(…愛されてる、なあ。小春ちゃん…)



『ユウジー。帰ろ』

大きな声を出すものの、小春ちゃんでいっぱいな彼は、全く気付かない。
(無視かよ)

「ほら、ユウ君。名前ちゃん、呼んでるわよ!」
ゲシゲシと足蹴りされているユウジ。ざまあみろ!
そして小春ちゃん!気を使ってくれてありがとう!
ユウジがあなたを好きになったのも分かります。

渋々だけど、やっとユウジがこっちに戻って来た。
「はよ、帰るで」

いや、あなたを待っていたんですが。

***

二人の帰り道。
会話のない時間は、少し寂しい。

幼馴染な私達。
だからといって、漫画とかに良くある甘い関係なんかじゃないし…。というか無理だと思う(だってユウジ、女の子に興味ないんだもん)

少しだけ、視界が滲んで見えた。

小さい頃はよく、「名前ちゃん、遊ぼー!」、そう言って私の手を引いてくれたのに、今は手をつなぐことなんてまだしも、話すことも少ない。

…小春ちゃんのことがものすごく好きなのは分かる。
見てれば分かるし、私と話す話題も小春ちゃんばっかだもん。

女の子として、見ていないかもしれない。
…幼馴染としても、見ていないかもしれない。

グッと拳を握りしめた時、ユウジの焦った声がした。


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