『うっ…くっ…』
気づいたら教室に来ていた。
幸い、生徒は誰もいない。
『…嫌われてた』
少しでも期待していた私がバカみたいで、また涙がにじむ。
近づけたらいいと思って行動した結果が、コレ。
『は、はは…っ』
そんなのヤな女じゃないか。
『帰ろ…』
急いで、かばんに教科書を詰め込んで、教室のドアを開けた。
「っ苗字、」
『ひよし、くん』
そこにいたのはまぎれもない、日吉君で。
どうしてここに。
あぁ、今こんな不細工な顔、見られたくない。
ただでさえ、嫌われているのに。
『ごめ、…っ』
彼の横を通り過ぎようとした時、
「ごめんっ…」
気持ちのいい、暖かな香りがした。
この匂い、
日吉、くん?
彼に抱きしめられていると気づくのに、そう時間はかからなかった。
『な、離し「離さない」…!』
どうして私は、彼に抱きしめられているの?
だって、嫌われているのに。
ねぇ、日吉君。
君の気持ちが、
分からないよ。
「さっきは、悪かった…」
『…』
「少し、イラついていたんだ。…今の俺じゃ、跡部さんのようになれないから…」
彼の話を聞いてると、日吉君がいろいろむしゃくしゃしているときに、偶然私が通りかかったらしい。
そのいらつきを、空気の読めない私にぶつけたと…。
「本当は、あんなこと言うつもりは、なかったんだ」
『…うん』
…どうやら、嫌われているわけではないらしい。
『さっきね、…今更ながらに日吉君の邪魔している、って気づいたの』
『いっつも自分だけしゃべってて、日吉君の都合何か考えないで…。…本当にごめんなさい』
これからはもう、なるべく話掛けないから。
そういうつもりだった。
だけど、
「いや、…その。
離しかけてくれる女子なんていなかったし…。少しは、その、
嬉しかったよ」
照れている顔の赤い日吉君に、そんなことを言われたら、言えるはずがなかった。
『…ふふっ。そっか』
「笑うなよ」
あんなに気持ちが沈んでいたのに、今では心が軽い。
『ねぇ、日吉君』
「…なんだ?」
真っ赤なりんごみたいな君に一言。
『…大好きだよ』
今までの私の気持ち、受け取ってください。
(…、)
(ははっ、押し黙ってるよー…。…というか、いつまでこの態勢なんだろう)
(…俺も、すきだ(いつも君が俺の視界に、ちらついていたんだ))
水無月様へ→
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