朝。久々に大学がないと思って油断したのがいけなかった。しまった、と顔を顰めてベッドから起き上がる。
昨日の豪勢な食事は冷蔵庫に入ったまま。
隣で寝ているはずの精市がいない。ということは、彼が料理の存在に気づくかも知れない。
急いで台所まで走った。そこにいたのは、冷蔵庫を開けたまま呆然としているのは間違いようのない、精市。
ああ。
気づかれてしまった。

彼はゆっくり私のほうへと振り返る。私はというと、突っ立ったまま。顔を俯かせていて、肝心の彼の顔が見えない。
ねえ、馬鹿だと思った?
記念日だけにこんな豪華な料理作ったんだって。

…ほんと馬鹿みたいだよね。こんな料理なんて作ったって。精市が帰ってこないと意味はなかった。こんな料理を作っている間、精市は友達の名前さんと食事をしていたんだろう。

「…名前、これって、」
『…そ、れは。あの…えっと…。料理の練習でつくりすぎちゃって…』
「こんなに豪華なものを…? ねえ、名前。もしかして、これ。昨日の記念日の為に…?」

びくん、と彼の発した単語に体が反応したのが分かった。
それを見た上でもう、彼はわかっている。

『そ、そうなの! 記念日の為に、作ったんだけど。精市帰ってこなかったし。えっと、…捨てようと思ってて! っ、だから!そこどいて…?』

これ以上何かを言っていたら惨めになる。そう思った。だから、冷蔵庫の前にいる精市を押しのいてでも早く料理を捨てたかった。

料理を捨てようとする私の手を彼は阻む。

『ちょ、っと…。何で邪魔するの。捨てさせてよ…っ』
「だめだよ!だってこれ、名前が俺達のために作ったものだろう? …ごめんね、名前。記念日のこと忘れてて」

強く抱きしめられ、一瞬息が出来なかった。
ふ、っと力が抜けていき、彼にもたれかかるような体勢になる。
すると我慢していた涙が彼のYシャツに浸透していった。

『ずっとね、待ってたの。でも、精市、っ、帰ってこなくて。…おまけに友達の名前さんと食べてきたって…っ。ぅ、記念日のこと、覚えてないんだなぁ、って、思ったら悲しくなって、それで、それで…っ』

堰を切ったように溢れ出す涙を彼は優しく拭きとった。

「…うん、うん。分かってる。本当に悪いことをしたね。…ごめん」
『ううん。いいんだよ、仕方ないし。勝手につくったんだもん』
「捨てる、なんてことは許さないよ? 幸い今日は大学もないし、名前が作った美味しそうな手料理、全部食べようか?」
『…うん!』

作らなければ良かった、なんてもう思ってないよ。
だって今隣で料理を大事そうにレンジにかける精市の顔を見たら、そんなこと思えるはずがないもの。

「いただきます」
『いただきます』
「名前」
『なに?』
「1年目に乾杯」
『!…乾杯!』


愛を見つめて



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