「なまえ」
「孝支くん」

部活お疲れ様、そう言うとありがとなー、と頭を優しく撫でてくれた。
彼のこういうところが好きでたまらない。
他にもたくさん孝支くんのいいところはいっぱいあるし、話足りないんだけど、それを口に出してしまうと彼が真っ赤になってしまうのでやめておく。

「今日も遅くまで待たせてごめんな」
「ううん。全然。私が勝手に待ってるだけだもん」

ごくごく自然と繋がれた手。指先から伝わる温かさを感じながら私は言った。

「孝支くん、今日何かあったでしょ」
「…え?」
「辛そうな顔、してる」

パクパクと声にならないような表情の彼。
私だって気づくよ、それくらい。だって私はあなたの彼女だから。当たり前でしょう。



「孝支くん、あのね、」

「泣いたっていいんだよ」

「きっと孝支くんのことだから、私にかっこ悪い姿は見せちゃいけないとか我慢しなくちゃとか、考えてるかもしれないけど」

「孝支くんの強いところ、弱いところ、全部曝け出して欲しいな」


ヒュ、と彼ののどが鳴る音がした。驚きを隠せないように目を見開いて私を見ている。

「そんなこと、」
「ないわけ、ないよね」
「……」

あなたが強がりなことも知っている。我慢しがちなのも知っている。
最近、とても強いセッターの後輩が入ってきたんだよね。知ってるよ。
三年生は今年が最後だから。だからこそ、あなたがどれだけ頑張ってきたか、努力してきたかを私はちゃんと分かっているよ。



だから、




「――泣いてもいいんだよ」

私がそういった瞬間、自分の体に感じる重みと体温。
孝支くんのふわふわした柔らかい髪が、首筋にかかる。
…肩が小刻みに震えている。きっと、泣いているのだろう。
彼の背に手を回しギュっと力を込めた。それに返すように恐る恐るまわされた腕が愛おしい。

それからどれくらいしただろうか。
私の体から離れ顔を上げた孝支くんの目は、ちょっぴり赤く腫れていた。

「…ほんと、なまえには勝てないなあ…」

ありがとう、といつもの太陽みたいな笑顔を浮かべてくれた彼に対して、どういたしまして、と私も笑った。



君のそばにはいつも私がいる。だから、泣きたいときには存分に泣いてもいいんだよ。


title by 彼女の為に泣いた様
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