ど、どうしよう。押しちゃったよ勢いあまって押しちゃったよ馬鹿じゃないの…!
そうだ、こんなことを言っている場合じゃない、私が馬鹿なのは昔からだ! それよりも早く通話終了ボタンをタッチしないと――…、
『――はい』
「……」……や、やっちまったあああ!(心の声)
幸村くん出ちゃったよ嘘でしょう!? 出ないと少しだけ念じてたのに出ちゃったんだけど! いや別に幸村くんは悪くないんだけど! 悪いのは全部私なんだけどね!
このまま出ないというのも失礼極まりないので、とりあえず平常心を心掛けながら、スマホを手に取った。
「も、もしもし、幸村くん…?」
…緊張のあまり、声が裏返ってしまった。
恥ずかしすぎる。この羞恥心で今ならきっと死ねる気がする。
『うん。…みょうじさん、どうかした?』
恥ずかしいです幸せです、不本意ながらも貴方と電話をしているこの瞬間が!
「あ、あう…、いや、えっと、その……ハハハ、」
…ハハハ、って何!? 気持ち悪っ。
こんな気持ち悪すぎて吐き気でもでそうな私のことを、幸村くんはいつもと変わらず優しく応対してくれた。
『何か用でもあった?』
「よ、用っていうかなんていうか、その…!」
『うん』
「…っ、」
言えないです。言えるわけないんです。電話してみたかったなんて、言えないんです…!
だって、気持ち悪がられたりしたら私は…。
すると、私の心の声を読んだように、彼は言った。
『大丈夫だよ。言ってみて、みょうじさん』
まるで心が解されたような気がして。…言っても、いいのかな。
「あ、の…。幸村くんと電話、してみたくて。でもする前に明日試合だって言ってたの思い出したから、止めようとしたんだけど、押す場所間違っちゃって、…掛けちゃいました」
ごめんね、と小さく呟いた声は聞こえたいただろうか。電話越しに続く沈黙が辛い。
嫌われた、かな。
すると何秒後かに返ってきたのは、私の予想を大きく180度回転したものだった。
『…ふふ、はははっ、そういうことだったんだ。…みょうじさんは色々勘違いしてるね。まあ、そんなところも可愛くてしょうがないんだけど』
「え、」
色々と勘違い? そんなところも可愛くてしょうがない?
…私が?
彼の言葉を理解し気づいた頃には、ボンッと顔が真っ赤になり、口からはろくに言葉も出てこない。
「な、ななな何言って、かっ、可愛いとか、そんなの、」
『みょうじさんは可愛いよ。俺にとって世界で一番。…それに、みょうじさん勘違いしてるでしょ?』
「か、勘違い…?」
『そう。みょうじさんは俺に迷惑がかかるとか、自分なんかが、って考えて電話とかメールを遠慮したり、学校でも必要以上に俺と関わろうとしないでしょ?』
「そ、れは…、」
…図星です。正解です。なんてこった。幸村くんってば、それに気づいていたの…!?
『あのね、みょうじさん。俺、迷惑だなんて思ったりしてないよ。寧ろ電話とかしてくれたほうが凄く嬉しいんだ。学校でだってもっと話したい。…ねえ、みょうじさんは違うの?』
「…!」
彼の言うことが信じられない。だって、迷惑じゃないなんて、そんなわけあるはずが…。
でも、電話越しの彼の声はすごく落ち着いていて、それで優しい声音だった。嘘をついているようには到底思えない。
「…もっと電話掛けてもいいの…?」
『もちろん』
「学校でも、話しかけたりしてもいいの?」
『当たり前さ。俺だって話しかけに行くよ。それに、会いに行く』
「あっ、ありがとう…!」
嬉しくて嬉しくて、もう涙がこぼれそうだ。…あと鼻水も出そう。
鼻水の音なんて聞かせたくないので、ぐっと我慢した(シリアスな雰囲気が台無しだ)
『これからは遠慮なんかしたりしちゃいけないよ? みょうじさんは俺の彼女なんだから』
俺の彼女なんだから、か。そっか、私、幸村くんの彼女なんだよね。…夢なんかじゃ、ないんだもんね。
「分かった…! あ、それと、」
『ん?』
忘れちゃいけない、これを言わなくては、
「明日の試合、頑張ってね。私、応援してるから!」
『…! ――ありがとう、絶対に勝つよ』
「うん…!」
それから何十分か彼と会話した。あんなに話したのは初めてかもしれない。
ああでも、電話を間違えて掛けてしまって良かった。思いが通じることを実感できたような気がするから。
電話越しの彼もすごく優しくて、私には勿体ないくらいの人で。
それでも好きで堪らないという気持ちがまた膨らんだ。
幸村くん、好きです。大好きです!
title by 確かに恋だった様
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