拝啓 大好きなあなたへ
(今までいえなかった言葉)


今、あなたは如何お過ごしでしょうか。
テニスが大好きな精市のことです。夜遅くまで練習をして、帰りが遅くなっているのではないでしょうか。

この手紙を読んでいるのは……、私が死んでから2年程立っているのではないかと思います。
あなたよりも、先に死ぬことを許してください。
できることならば、あなたとずっと一緒にいたかった。
一緒に学校に行って、一緒に帰って、一緒に買い物に出かけたりしたかった。
夢に見ていたことを、一生できなくなってしまい、とても悔しくてなりません。

3年前、精市が病気にかかったとき、絶望したことを今でもよく覚えています。
テニスをがんばってきたあなたに、「もう二度とできない」といわれた言葉は、あなたにとってどれほどの苦痛を与えていたでしょうか。
きっと私にも、誰にも分かることのできないほどなのでしょう。

そして更に追い討ちをかけるように、精市が私に言った言葉。
「お前が病気になればよかったんだ」

……その言葉で、今まで必死に積み上げてきた「幸村名前」というモノが崩れ去っていくようでした。

昔から何でもできた精市。勉強だって、運動だって。苦手なものなんてなかったあなた。
そんなあなたに対して、双子である私が比べられるのは、必然的でした。
どんなに勉強をしたって、運動を頑張ったって。
あなたを超えることなど。ましてや、並ぶことさえできなかった。

それからです。私が嘘の「幸村名前」を造り出したのは。
愛想笑いをして、間違いをすればすぐ非を認める。誰もが見て、いい子だと思える優等生を演じきっていました。
……ですが、時に両親の言う「精市のようにはできないのか」。
この言葉は、誰にどんなことを言われるよりも辛かった。
精市と比べてほしくなかった。私を、名前を見てほしかった。

それに気づいたであろうあなたが私に、「もう演じなくていいんだよ。本当の“名前”に戻ろう?……あのときは、ごめん。本当にすまなかった」
そう言って、優しく私を抱きしめる精市に、涙が止まらなかった。
気づいてくれた人がいたことが嬉しくて。
本当の私を見ていることが嬉しくて。
堰をきったように溢れ出す涙は、止まることを知らなかったようでした。

それから私は、演じることをやめました。
本当の私であるために。


…ですが、そんな私に降りかかった現実。
――余命があと1年だということ。
両親たち、精市はひどく驚いているようでしたが、自分にはなんとなく分かっていました。
いつも体がだるくて、立つのが辛い。堰が止まらない。堰の中に混じって見える赤。

ああ、これはもう――…。
悟った私は、精市たちには言わないでいました。心配なんて、してほしくなかったから。

入院までするようになった日、精市は私が寝ている間、ベッドの横に座り、泣いていましたね。
実はそのとき、起きていたんです。…怒らないでください。
私を思って泣いてくれたこと、とても心に染みこんだ。


あなたの妹になれてよかった。
最初は「何で」なんて思っていたけれど、今ならはっきり言える。
私、「幸村名前」は、「幸村精市」の妹になれて幸せでした。
本当に、本当に。何度言っても足りないくらいに。

あなたと笑いあうことは、もうできないでしょう。
ですが、あなたのその輝かしい笑顔を、思い出を、姿を、声を。
全て忘れたりなんかしないから。

忘れることのできない、私にとって一番の宝物だから――。


だから、この手紙を読み終えた後、決して泣かないで。
天国にいる私に向けて、最高の笑顔で笑ってください。





あなたにとって、唯一無二の妹より。





(この手紙を読み終えたときに)
(瞳に涙を滲ませながら、満面の笑みを浮かべた青年がいたという――…)



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