「ごめん、明日はどうしても行かないといけない用事があるんだ」

精市がはなった一言は、私を傷つけて絶望させるのには十分すぎた。

「、そっか」
「うん。誘ってくれたのにすまない」
「ううん。いいんだ」
「じゃあ、俺行かなきゃいけないから」
「待って。あ、いや、なんでもない。じゃあね」

昨日交わした言葉がフラッシュバックして視界が滲む。
彼女より大事な用事って何よ。彼女よりマネージャーと出かける事の方が大事なのか。
私は一人部屋で寂しく過ごしているのに。

去年から楽しみで楽しみでその日付だけ華やかになっているスケジュール帳。今日は精市と私の3周年記念日。そんな大切な日に精市は違う女の子と買い物に行く。

『来年も再来年も、この日は一日一緒に過ごそうね』
「って言ったのはどこのどいつよっ、馬鹿…」

精市は記念日なんかきっととっくに忘れてる。

『離さない。なまえが別れるって言っても俺は別れないからね』
『別れるなんて言いませんよー』
『まあ俺もなまえに愛想尽かされる事なんてしないよ』
『私も精市に愛想尽かされないように頑張る』
『ふふ、期待してるよ』

付き合ってすぐに精市と交わした言葉が頭に浮かぶ。昔は私が離れようとしても離さないよ、なんて言ってくれていたのに今は逆。私が精市が離れないように必死になって止めている

精市の心が離れてるなんてもうとっくに気付いてた。高校になって新しく入ってきたマネージャーのともだちちゃん。よく働くいいマネージャーらしい。2人で帰るときも精市から出てくる話題はともだちちゃんの事ばかり。しまいには今日は先に帰ってくれないか、なんて言われてしまったり。

精市はもう私の事、迷惑としか思ってないのかな。

精市が喜ぶと思って取った新くできたガーデンの入場券を握りしめる。普通は彼氏が記念日の予定作る物でしょう?なんて心で問いかけて見るけれど、その彼氏が記念日忘れちゃってるんだからしょうがないのかな。

「もう、潮時なのかな…」

精市と思い合っていた日々を思い出す。思い出があまりにも色鮮やか過ぎて今の関係が押しつぶされそうだ。
記念日に2人でいないなんて終わったようなもんじゃん、なんて自嘲したら溜め込んでいた涙がどっと溢れて来た。
なんであの時、ともだちちゃんと出かけるって言わなかったの。知るんなら精市の口からきちんと聞いて諦めをつけたかった。なんでブン太の口からそれがでてくるのか。

『なぁ、お前ら別れたの?』
『え、なんで?』
『だって、明日幸村君、ともだちと買い物行くって』
『っ!!』

私に隠したかったって事は、ともだちちゃんに対して恋愛感情があるからじゃないの?今頃何しているのか。二人で買い物して公園行って、告白して、付き合っちゃったりするのかな。
一度自分の思ったように思い出すとどんどん悪い方向に向かっていく。なんで、記念日に他の女の子と。普通の浮気より、酷いよ。

「っ、ふぇぇ…」

精市なんて大嫌い、なんて思いたい。だけど、やっぱり私は精市が好きだから。

寂しい、寂しいよ。精市。
離さないんじゃなかったの?
ずっと傍にいるんじゃなかったの?
私との約束なんて、そんなに簡単なものだった?

「ぅうっ・・・」

一度流れ出してしまった涙は止まらない。もしかしたら来てくれるかもしれない、なんて期待して着たちょっとおしゃれな服も涙でどんどん濡れていった。
すると、階段を上って来る音が聞こえた。お母さんかな、もう気付かれても良いやなんて思ったよりも冷静に考えていると、バタン!と急に部屋の扉が開いた。

「なまえ!」
「、え、せい、いち…?」
「なまえ…!すまない…!」

いきなり扉をあけられて、いきなり精市が目の前にいて、いきなり抱きしめられて思考回路がショートしてる。なんで、なんでここに精市が。

「ともだちちゃんと…、あれ、え、なんでいるの?」
「俺…!本当にすまない!寂しかったよね」

久しぶりに聞く精市の優しい声に驚いて止まっていた涙がまた溢れ出す。

「っ、精市の馬鹿っ・・・!」
「なまえ、」
「なんで記念日忘れてるのなんでともだちちゃんと出かけちゃうの!記念日なのに…!」
「、ごめん」
「寂しかった!ずっと寂しかった…!っ、なんでともだちちゃんの方ばっか、行くのかなぁ…って…!」
「本当は精市に嫌い、大っきらいって言いたかった!別れるって、言いたかった。でもっ…ふぇぇっ・・・」
「本当に馬鹿だね、俺。調子のってなまえの事傷つけて、最低だよ」
「っ・・・う」
「ともだちとは何も無いよ。マネージャーと部長だからって一緒に居すぎたね。なまえの事、一番にしなきゃいけないのにそんな事も気付かずに。もうこんな事ないようにするから、何回でも謝るから、だから、別れるなんて言わないでくれないか…!」

精市の力が強くなる。久しぶりに感じる精市の温もり。あ、汗かいてる。記念日だって気付いて走ってきてくれたのかな。そんな事を想うと、一気に愛しさがあふれてしまうんだ

「っ、精市、」
「なまえ…」
「本当は精市に別れようって言おうと思った。だけど、無理だった。だって私は精市の事がっ、今でも凄く凄く大好きだから…」
「!」
「精市が本当に反省してくれてる事、分かってる。だから、もう今までの事は気にしない。でも、だから…、これからいっぱい、好きって言って下さい…!」
「…!やっぱりだめだ。俺にはなまえしかいないみたいだよ。こんなに嬉しくなるのも、悲しくなるのも、なまえの事だけだ」

精市の囁く甘い言葉にまた涙があふれる
でも今は、その涙を拭ってくれる精市がいるから。

溢れる涙が枯れる頃

溢れる涙が枯れる頃、きっと目の前には
大きな幸せが待っている。

(記念日なのに、どうしようか。時間もないし)
(このままゆっくりしたい。精市ともっと…一緒に居たいし)
(ああもう本当にダメ。俺もう我慢の限界かも)
(え、ちょっと精市っ!)


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