最近になって後悔することが多くなったな、と染々思う。
テスト前に勉強をしなかったり、名前を書き忘れたり。家に帰ったら鍵をなくしていたり。なんて、馬鹿みたいね。
この前だってそうだった。付き合っていたと思っていた彼氏には、他に好きな子がいた。……とか。

部活とモデル仕事で忙しい涼太。それにひきかえ私はバイトのシフトがつまっていて忙しい。恋人同士だったけれどデートをすることなんて、ましてや放課後一緒に帰るなんてことはなかった。
それを寂しいと感じたことは何度もあった。でも、そんなことを言って涼太を困らせたくなんかないし、気を使わせたくなかった。それが裏目に出たのにね。

涼太が他の女子のことが好きだ、ということに気づいたのはつい最近。きっかけは簡単なもので、放課後の教室に忘れ物を取りに行ったとき、そこにいたのはクラスの女子と涼太。どうして、なんてとりつく島もないまま、彼らは両方を抱きしめあっていた。
(…なるほどね)
おかしいことに涙なんてものは出てこなくて。…きっとこのきっかけがなくたって、いずれ私は気づいていたはずだ。嫌なぐらい納得がいって、しばらく呆然としていた。すると、私の存在に気づいた彼が、「名前…」と、放心したような焦っているような声を出したのと、私が『涼太』と、彼の言葉を遮ったのはほぼ同じだった。

『…―ばいばい、涼太』

そう言った私の顔は笑っていたはずだ。

おかしいな、悲しいはずなのに涙一粒さえでてこないなんて。涼太は呆れたかな? 私のこと。
その場を駆け足で離れると、後ろから彼の私を呼ぶ声が聞こえたけれど、無視して走った。…彼が追いかけてくる気配なんてあるはずがない。
分かっていたことなのに、その事実を知って泣きそうな自分がいたことに気づく。

もう二度と彼が「名前」と愛おしそうに私の名前を呼ぶことはないのだろう。そして、私が涼太、と名前を呼ぶこともなくなるだろう。
この前まで幸せだった昔の残像が、今となってはただ、悲しくあり続ける。
私が彼へ手を差しのべたときにはもう、涼太の心は私の元にはなかったんだ。
…今更後悔なんて、遅いのだけれど。

泡になってさよなら

title by 確かに恋だった様
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