- ナノ -
ささやかな贈り物




とある晴れた日曜日ー

私と年下で彼氏である山岳は最近できた大きなショッピングモールへ足を運ぶことになった。
日曜日ということで多くの家族連れやカップルが電車の中で目に見えた。
まあ、私たちもカップルのうちに入る...けど。今日は久しぶりの“デート”を満喫できるのだ。いつも私が連絡しても「今日は山が呼んでるからまた今度ね!」と一方的の電話を切られてしまう。

たまに思う。
私たちって本当に付き合ってるのかなと。
会うのは部活の時が多くて電話とメールはたまに、山岳は目を離すとすぐ山へ行ってしまうのでお互いの時間を過ごしたのは数える程度。
私は今年受験だし、もう山岳と高校生として隣に立てるのはわずかな時間しかない。
果たして華の高校生!といえるのだろうか........

「(今日は滅多にないデートなんだから思いっきり楽しもう!)」

そう決意をした途端、目的地の駅に着いたアナウンスが電車内で流れ慌てて隣で寝ている山岳を起こすことにした。


ーー 「へぇーいっぱいお店があるんですねー」
隣を歩く山岳は瞳を輝かせながらキョロキョロとショッピングモールを見渡した。
多分こういった人が多い所は行かないのかまるで少年のようにそわそわ落ち着かない様子だ。
そんな山岳を見て小さく笑ってしまった。山岳は不思議そうに首を傾げ、何かを見つけたのか満面の笑みで私の手首を掴んだ。

「俺、あそこ行きたい!」
「えっちょっと...!」



「.....ねぇ、本当に入るの?」
「うん。だって俺服選んであげたいもん、ほらほら〜」
「あー!!もう押さないで!絶対似合わないもん!!」

山岳に散々連れ回されて、突然「いいことに思いついた!」と言って連れてこられたのは女性服が並ぶ階。
何事かと思えば今日は俺が君に似合うもの選んであげる、という提案だった。
そして目の前のお店はシンプル且つカジュアル系の服を着る私には別世界の『女の子らしい』服が集まる店だった。

....ギンガムチェックのワンピースや可愛らしいフリルがあるスカートなど並んでおり、店員のお姉さんも可愛いくて場違いなのではと不安になった。

「さ、山岳...やっぱり違う店に...」
「あー!これとか似合いそう!」

渡されたのは落ち着いた薄ピンクワンピースに腰辺りにリボンが付いたベルトが付いていた。
これ可愛い......じゃなくて!!

「絶対似合わない!」
「え〜それ着てみないとわかんないじゃん。こういうカーディガン合わせたらもっと可愛いし」

近くにあった白いニットのカーディガンをワンピースに合わせる。山岳はファッションセンスがあるのか組み合わせのが上手い。
それに彼自身オシャレだし、シンプルな服でも着こなしてしまうので悔しい。
店員のお姉さんも「素敵です!」と高い声を上げながら山岳をベタ褒めてる(目がハートになってるけど)

「....俺が選んだ服着てくれないの?」

まるで子犬のように潤んだ瞳であざとく首を傾げる彼に店員さんもそこにいたお客さんも堕ちてしまった。
だけど今回の私は負けない、もうその手には乗らない。

「山岳、そんなあざとくしても駄目」
「.........」

これで諦めてくれただろうと思い、ため息を漏らすと腕を引っ張られ試着室まで押し込まれてしまった。

「ちょ、さんが...」
「なまえ」

ドキッと胸が高まる。滅多に言わない名前呼びに慣れてない私は顔が熱くなるのがわかった。
目の前の山岳は私を見下ろすように真剣な瞳で見つめる。

「これ着て?」

嗚呼、あざとい彼も弱いけど突然スイッチが入って男らしい彼にも弱い私は首を縦に振ってしまった。
満足したのか山岳は選んだ服を渡し、耳元でボソッと囁いた。

「その顔最高に可愛い」
耳朶にちゅ..っと音を立てて私から離れカーテンを閉める。
...こんな公共の場で何をしてるんだ!と更に恥ずかしくなり、周りに人が居なくて良かったと思い溜息をついた。
そして渡された服を見て渋々着ることを決意した。



「.........どう?」
「.........」

渡されたワンピースとカーディガンを身に付け、山岳に見せた。
口元を片手で覆い無言で頭から足の先までじっくり見られる。
...なんか感想言いなさいよ!と思いながら待っていると試着室のカーテンを閉め何故か山岳まで入ってきた。

「えっ、何」
「.....すげー可愛くてビックリしちゃった」
胸元に引き寄せられ山岳の香りが一層強くなり鼓動が早くなった。付き合ってしばらく経つのにまだ抱き締められるのは慣れてない、というか突然こういうドキドキすることをする山岳がずるい。

「...これ、買おうかな」
「本当!?」
「う、うん。山岳が可愛いって言うなら自信持てる、かも...」

好きな人に言われる“可愛い”は恥ずかしい反面嬉しい。友達に言われるのも嬉しいけど、好きな人に言われたら着てみようという気持ちが大きくなる。
誰だって好きな人の前では可愛い格好で居たいしね。

「.........やっぱり駄目」
「は!?」
暫く私の格好を見たあとあんなに絶賛していた服を突然駄目だと指摘する山岳。私が意味がわからないと思い大きな声を上げてしまう。

「だってなまえさんが可愛いと他の男が好きになる」
「........へ?」
「だから着るなら俺の前だけ、ね?」
「は、はい...」

その時つい肯定してしまった私と満面な笑みを浮かべる山岳。
山岳の前だけ着るという約束だったのに、忘れた私は後日友達と出かける際にこのワンピースを着てしまい、拗ねた彼を慰めるのに苦戦したのはまた別の話....。


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