- ナノ -


クリスマスイブの日、私はいつもより丁寧に身支度を整えて家を出た。服のせいか、尚且つイブだからなのか、お母さんに「デート?」と聞かれ、図星だったので狼狽えていると母は大層面白がった。その上、まさかデートの相手がアキラくんだとは、夢にも思っていないかも。

待ち合わせ場所は最寄駅で、緊張して早めに来たというのにアキラくんはもう着いていた。早いね、待った?と聞くと「楽しみで早く着いちゃったんだ」と瞳を細めて言うものだから、早速ドキッとさせられてしまう。もう、アキラくんってずるい。こういう事を素直に言える所が。

「なまえ。服、すごく可愛いね」
ドギマギしている私に追い討ちを掛けるかのようにアキラくんは言った。正直、すっごく嬉しい。何を着ようかめちゃくちゃ迷って決めた服だから。
「あ、ありがとう…アキラくんの服も、恰好良い」
「そう?なら良かった。キミとデートなんて、着る物にすごく迷っちゃったよ」
ーーーだから、そういうトコがずるいんだってば。

「ええと…アキラくん、今日はどこへ連れて行ってくれるの?」

照れ隠しで彼に聞く。行き先は当日まで楽しみにしていて、と教えてもらえなかったのだ。

「今日はね、プラネタリウムに行こうかと思って」
「わぁ、嬉しい!クリスマスイブにプラネタリウムなんて素敵!」
「ふふ。キミならそう言うかなって思った」

アキラくんは私の事をそう言うけど、でもそのデートコースのチョイスもまた、アキラくんらしいなと思った。
 私たちは電車に乗り、プラネタリウムのある施設を目指した。イブという事もあってか、電車の中はカップルばかりが目についた。きょろきょろと落ち着かない私に反して、アキラくんがじっと私だけを見てる事に気付く。気のせいかな。一度目を逸らして、もう一度彼を見る。また、目が合った。

「アキラくん、どうかしたの?」
電車の中という事で、控え目な声で聞く。
「え、何が」
「ずっと私のこと見てるから…。私の顔に何かついてる?」
「わ…ごめん、そんなに見てたかな。…でも確かに、今キミの事ばかり考えてた…。可愛いなとか、そんなキミの事独り占めできてボクって幸せ者だな、なんて…」
不快な気持ちにさせたのなら申し訳ない、なんて律儀に言って、アキラくんは恥ずかしそうに目を伏せた。
「えっ…そ、そんな。嫌なわけは無いよ」

慌ててそう言うと、アキラくんはホッとした様子で顔を上げた。
こんなに沢山の人がいても、アキラくんは私しか見ていない。嬉しくて、気恥ずかしくて、胸が苦しくなる。

 数駅乗ったところで私たちは下車し、改札を出てアキラくんの案内で街を歩いた。彼の足取りは迷う様子もなくスムーズに施設へと到着した。真面目なアキラくんの事だから、もしかしたら事前に下調べをしていたのかもしれない。
 館内は開始前といえどほのかに暗く、幅広のゆるやかな階段で構成されていた。私のすこし前を歩くアキラくんは、段差に気がついて、振り返って手を差し出して言った。


「お手をどうぞ、お姫様」


からかい半分で言っているようで、慌てるこちらを見てクスクス笑っている。そして、戸惑う私の手を握った。

「お姫様って…」
「ふふ。言ったでしょ、今日はエスコートするって」
…しっくり来すぎて冗談になってないよ、アキラくんっ。

「あ、ここの席だよ」

チケットに書かれた座席番号と照らし合わせて、アキラくんが言う。私たちは横並びで隣に座ったけど、片手が繋がれたままだ。離すタイミングも分からなくて、いくつか雑談をする間もついそのままになって……いよいよプラネタリウム上映が始まってしまった。
頭上に満天の星空が広がる。
スピーカーから流れる説明アナウンスを聴いて、その視界の美しさに感激しながらも、私の意識はずっと片手の方にあった。
こんな、手を繋いだまま、プラネタリウムを見るなんて…。まるで、本当の恋人みたいじゃないか。
いつかアキラくんと付き合ったら、こんなふうにデートをするんだろうか。
そう考えたら、胸が焼けるように焦がれた。

ちら、と横目でアキラくんを見る。
手を繋いでいる事、アキラくんはどう思っているんだろう。
ところが彼はプラネタリウムに集中しているようで、真剣な眼差しでスクリーンを見つめている。何よう、私だけが意識してるの?
 人工の星灯りはアキラくんの瞳をキラキラと輝かせている。綺麗な瞳。整った横顔。
ーーー思えば、彼の横顔をまじまじ見る機会ってあまり無かった。見てもいつもすぐに気付かれてしまうから。こうして改めて見ると……やっぱり、美人だなぁ。本当にこんな男の子が私の事を好きで、良いんだろうか。

 その時、アキラくんが私に気付いて、視線をこちらに向ける。しまった、あんまりジッと見過ぎちゃったかな。
するとアキラくんは小さく笑って、私と繋いでいない方の手の人差し指を立て、天井を指した。見るのはコッチでしょ、とでもいうように。
私は恥ずかしくなって、慌てて視線を上に戻す。年下にたしなめられてしまった…。
するとアキラくんが、繋いだ手の力を強めて、ぎゅっと握った。
ーーーわ、わ。何だこれ……。ホントずるいなぁ、アキラくんって…。
アキラくんのひとつひとつの仕草に、胸がいっぱいになる。どうしてなのだろう。




星に誓えば
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