影山 飛雄
- ナノ -


良いカレシ 2

 名前さんが少しためらうように、俺の太腿に横向きに座る。細い腰が落ちないように、片手で抱く。柔らかくて、あったかくて、俺は自分で呼んだクセに、ドキドキと胸が詰まる。何度触れたって慣れない。だいすきだって気持ちが爆発して、壊してしまわないか不安になる。俺はもう、大切なものを壊したくはない。だから溢れそうになるけど、慎重に触れる。

 腰に触れていない方の手を持て余して、制服のスカートから覗いた膝のあたりになんとなく乗せた。
すると、名前さんの素肌を思いのほか感じてしまって、俺は慌てて「スミマセン」とその手をすぐ退ける。
彼女も緊張しているのか、「い、いえ」と、何故か敬語だ。




「・・・とびおくん。これ、上に乗るの、気に入ったのですか」

恥ずかしそうに頬を染めて、名前さんが言った。

「ん。カオが近くで見れるから、好きだ」

じっと見つめる。ガラスみたいな名前さんの瞳が揺らぐ。身長差が埋まってるから、いつもみたいに俯いたって逃げ道はない。照れてる顔もいっぱい見れるから、こうやって上に乗せてぎゅっとすんの、好きだ。


「大好きです」


俺がそう言うと、名前さんは優しく目を細めて、俺の頭を撫でた。
 突然の事にビックリして、子ども扱いみたいでムッとしたけど、「髪、サラサラだね」って嬉しそうに笑うから。細い指で、大切にやさしく撫でるから。まんざら悪くない気持ちになって、目を細める。




「・・・もし『名前』が名字だったら。名前飛雄になるかもってコトですか。ケッコンしたら」
「へ」
「『影山』じゃなくてもケッコンしたら好きな方えらべるって聞きました」
「え、ええと・・・。え、結婚?何から言えばいいのかな。うーん、結婚したら、そうだね。でも、名前は名字じゃないから。苗字飛雄か、・・・影山名前、だね」
「わ、わかってる、そのくらい」


 影山名前。ヘンな感じだ。ずっとカゲヤマくんって呼ばれたのに、名前さんもカゲヤマになるの、不思議だ。これってやっぱ、早めに下の名前で呼んでもらう事にして良かった。
どっちもカゲヤマなのに名字で呼ばれてんのはややこしい。

 なんか、いいな。影山名前。俺のモンって感じして、イイ。
妙にしっくりきて、「影山名前か」って繰り返して言うと、名前さんが 「飛雄くんってさぁ…」と深くため息を吐いた。




「ねぇ、飛雄くん。重たくない?足しびれない?」
「全然っス。っていうか、軽いです」
「なんか、私ばっかりしてもらってる。・・・あ、そっか。ね、一度私の事降ろしてくれない?」
「え。嫌です」
せっかくコレが好きだったのに、離れたくねぇ。ぎゅっと強く抱きしめると、飛雄くん、と困ったような声が耳元で籠って聞こえる。
俺はしぶしぶ、彼女を解放する。


 すると名前さんは立ち上がり、俺が腰掛けていたベッドの中央辺りに座った。横座りになった自分の太ももをポンポンと叩いて「はい、交代」と言った。
 どういう事か分からず首を捻っていると、「飛雄くんの事を上に乗せるのは、さすがに大変だけど、膝枕なら」と、はにかんで言った。カワイイ。



「え・・・それは嫌っス」



名前さんがとてつもなくカワイイが、それとこれとは別だ。嫌だと眉を顰めると、彼女は「ごめんなさい」と、頬を染めてしゅんと俯いた。

「だってそれ、子どもにするヤツっすよね」
「えっ・・・そ、そういう事?」
「俺が年下だからって・・・」
「ち、違うよ。子どもとかじゃなくてね、こういうの、付き合ってたらしたりするのかなって」

名前さんの言葉に、目が点になる。
え。そうなのか?
彼女の顔と、烏野高校の制服のプリーツスカートを交互に見る。付き合ってたらここで寝たりすんのか。まじか?これを枕に?



「・・・やってみます」



しばらく彼女の太ももを睨んだが、名前さんの言う事ならだいたい信じる俺は、コクリと頷いてベッドに身体を沈める。






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