影山 飛雄
- ナノ -


VSバレー部 4







「え・・・え、ちょっと待ってよ若利クン。だって、苗字サンの事俺らに紹介したくて今日呼んだんじゃなかったの?」


真顔でとんでもない事を口にした若利さんに、天童さんが聞いた。そ、そうよ。私だって、そう思っていたというのに・・・。

でも確かに、付き合おうとかそういう事をハッキリと言われた事は一度も無かった。
でも、私はてっきり、あなたも私と同じ気持ちなのだとばかり思って・・・。

悲しさと恥ずかしさで、泣き出しそうになる私の隣で、若利さんは・・・真っ直ぐに前を見て、そして誰もが想像もしていないような事を口にした。




「付き合う、とは。彼女、とは何だ。それは、結婚を前提にという事だろう」



その場に居た全員が、若利さんの発言にポカンと口を開けた。そして束の間の沈黙の後、天童さんが「イヤ、真面目か?!」とツッコミを入れた。


「・・・俺は、名前が好きだ」
「・・・え、ちょ、ちょっと若利さん?!今度は何を・・・こ、こんな人前でっ、」
「誰よりも好きだと、胸を張って言える。何があっても、守り抜きたいとも思っている。だが将来の事は、すぐには約束できない。・・・ずっと一緒に居られたらどんなに幸せかと思うが、結婚となると二人だけで決めて良い事では無いだろう」


相変わらず真っ直ぐにそう言ってのけた若利さんに、私たちは呆気にとられて・・・そして少しして、誰かが吹き出したのを皮切りに彼のチームメイト達も一斉に笑い始めた。

「ちょ、ちょっと若利クン〜〜!なになに、いつの時代の人なの、ホンット」
「はぁ、全く・・・驚かせてくれるな、若利。まぁ、仲が良くて何よりだよ」
「な、なんて硬派な・・・!これも、エースの資質?!」
「ってか牛島さん、それほとんどプロポーズじゃないですか」

それは、決して彼を馬鹿にした様子では決してなく・・・信頼関係で結ばれているのだと、私は漠然と感じていた。
素敵な仲間に、囲まれているのね。
私は、ホッとしたのと同時になんだか嬉しくなった。



「なんだ。何かおかしいのか」
「いや・・・ははっ。・・・苗字さんも、こんな調子じゃ大変だと思うけど、若利の事よろしくお願いするよ」
「せ、生徒会長ッ!今度、試合見に来て下さい!牛島さんは、確かにすごいっスけど・・・でも俺も、ソコを越えてみせるんで!!」
「バカ、五色。こんなトコで失礼な事言ってんじゃねぇよ。まぁ・・・でも。牛島さんが生徒会長サンの事、そこまで言うなら・・・まずは牛島さんのプレー、見てもらわなきゃですね」


先程までは好戦的だった白布も、若利さんの発言によって私への評価が変わったのか、そんな風に言った。
・・・もちろん、私だって見てみたいわよ。
でも、若利さんのさっきの発言・・・もしかしたら私が見に行くと、迷惑なのでは?


「・・・でも若利さんは、私に来てほしく無いようだわ」
「何だ、俺がいつそんな事を言ったんだ」
「さっきよ。・・・無理に来なくて良いって、言ったでしょ」
「来たければ好きにしろ。だが会場には男が多いし、それにバレー観戦は流れ弾などもあって危険と隣り合わせだ。試合中では、俺は守ってやれない」


大真面目にそう言う若利さんに、「過保護かよ!」と天童さんがまたつっこんでいた。








そんなこんなで、途中何度か雲行きが怪しくなりながらも、最後は楽しい雰囲気でバレー部員との顔合わせは無事に終了した。

私は、次の練習試合は観戦に行く事を部員達と約束して別れた。
若利さんは私を家まで送ってくれると言い、寮への帰路へ向かう彼らの背中を見送った。


「・・・名前。具合はどうだ?気分は、悪くならなかったか?」


若利さんにそう聞かれ、レストランにいる間に男性恐怖症が発症しなかった事に、私はやっと気がついた。

・・・不思議ね・・・あなたが手を握っていてくれていたからかしら?

そして、私は先程の・・・白布曰く"ほとんどプロポーズ"みたいな若利さんの発言を思い出して、そしてこっそりと・・・胸の深くに、大切に仕舞ったのだった。











もくじへ