かくれんぼをやろう、と言い出したのは誰だったか。
とある森の中。
残夏は、木の上で膝を抱えて座っていた。
辺りはもうすぐ日が沈もうとしている。
ここに隠れて、もう何時間経つだろうか。
早く見つけてよ、心の中で幼なじみたちにため息をつく。
いい加減じっとしているのも疲れた。
ここまで見つけてもらえないと、幼なじみたちはいつまでも見つからない自分を置いて帰ってしまったのではないかという不安が頭をかすめてくる。
彼らに限ってそんなことはないと思うが。
残夏は、膝に顔を埋めた。
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あとひとり。
まだ見つからない最後のひとりに、どこにいるのだと蜻蛉はため息をつく。
残夏は隠れるのがうまく、いつも最後まで見つからない。
そのことがあるにしても、今日は時間がかかりすぎていた。
かくれんぼをはじめた当初鬼であった渡狸は、既に半分泣きそうな顔をしている。
もうひとりの遊び仲間である双熾は、さっきから何か考え事をしている。
彼ら2人を置いて、もう1度まわりを探しなおそうとしたとき、不意に双熾が歩きだした。
どうしたのかと思いながらも、蜻蛉は彼について歩きはじめた。
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双熾は、残夏が行きそうなところを考えていた。
今まで隠れていたところを考えてみたり、今朝の様子や最近の会話を思い出してみたり。
そして。
木の上は心地が良い、と彼が言っていたのを思い出す。
そういえば木の上は見ていなかったな、と双熾は森へ向かって歩きだす。
そのあとを蜻蛉がついてくる。
森へ入り上を見上げながら彼の姿を探していると、程なくして、膝を抱え顔を埋めている残夏を見つけた。
「夏目さん」
声をかけると、彼はゆるゆると顔をあげる。
その表情はどこか泣きそうだった。
「遅いよ、2人とも」
こちらを認めると、一気に笑顔になって木から飛び降りた。
「見つけてくれないかと思っちゃった」
その台詞に、彼を不安にさせてしまったのだと申し訳なく思う。
「き、木の上とは卑怯だぞ!」
隣では蜻蛉がどこかずれた発言をしていた。
「帰りましょうか」
そう言って彼に手を差し出す。
「…うん」
彼は嬉しそうに笑って、双熾の手を取った。
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渡狸は、ぼんやりと石の上に座っていた。
双熾と蜻蛉は、どこかに行ってしまった。
残夏を探しに行ったのだろう。
渡狸も行こうと思ったのだが、残夏が戻ってくるかもしれないから、と双熾に待っているよう言われた。
1人になると、堪えていた涙が溢れそうになる。
いつものようにじゃんけんに負けた渡狸は、鬼だった。
双熾と蜻蛉を見つけるのにも時間がかかってしまったが、それでも2人は見つけることができた。
だが、どうしても残夏だけが見つからない。
探しているうちに、もう夕方になってしまった。
ここまでくると、まるで残夏がこの世界のどこにもいないような錯覚に陥る。
本当に彼が消えてしまったのではないかという気さえしてくる。
溢れだした涙を、渡狸は乱暴に拭った。
しばらくして、2人が戻ってくる。
そしてそこには、残夏の姿もあった。
その瞬間、渡狸は反射的に走り出していた。
そのままぶつかるようにして残夏に抱きつく。
残夏が笑う気配がして、体温の低い手が渡狸の頭を撫でた。
「いなくなっちゃったかと…思ったんだからな!」
「僕が消えるなんて、そんなわけないでしょ」
渡狸はちょうどいいからかい相手だしね、そう言った彼の声が優しくて。
今度鬼になったときは、必ず自分が彼を見つけようと、渡狸は決意した。
かくれんぼ
(…なーんてことも)
(あったよねえ)
(い、言うなー!)