才蔵は雨の中、着物が濡れるのも気にせずに立っていた。
すでに着物は水分を吸って重さを増し、髪からはぽたぽたと雫が滴り落ちる。
正直なところ、雨は好きじゃない。
小さい頃の嫌な思い出やトラウマがあるわけではないが、何となく暗い気持ちになるのがいやだった。
では何故嫌いな雨の日にわざわざ外に出て雨に打たれているのか。
それはひとえに、自分への戒めのためだった。
最近、気が緩んでいる気がする。
そんな気持ちを引き締めるために外に出ているのだった。
心をからっぽにして、ぼんやりと空を見上げる。
「才蔵、何やってる!?」
ふいに名前を呼ばれて振り返ると、怒ったような表情をした佐助が立っていた。
「風邪引く!戻れ!」
近づいてきた佐助は才蔵の腕を引っ張る。
それでも動こうとしない才蔵に、佐助は叫ぶ。
「風邪引いたら上田守れない!」
その言葉にはっとした。
反省のために外に出たのに、それが原因で体調を崩したら本末転倒ではないか。
そんなことに今さら気づいた自分に呆れる。
「…そうだな」
こちらの反応を待っている佐助にようやく言葉を発する。
腕を引く力を緩めた佐助は、ほっとしたような表情をしていた。
雨の日、戒め
(…ちゃんと拭け)
(って、何すんだよ!?)
(才蔵ちゃんと拭かない。故に我拭く)