非番の日。
僕は、土方さんの部屋に来ていた。
本当は子供たちと遊ぼうと思っていたけど、土方さんが今日一日屯所を出ていると聞いて、やってきた。
こんな悪戯をするには絶好の機会を逃すわけにはいかない。
手始めに発句集を探すことにしよう。
僕はにやりと笑い、捜索を開始した。
「……ん?」
目当ての発句集を見つけ、ぱらぱらと流し読みをしていたとき。
ふと、文机の近くに本が一冊落ちているのが目に入った。
「何これ?」
拾い上げて表紙を見ると、そこには見たことがない外国の言葉が書かれていた。
何が書いてあるのかは解らなかったけど、なんとなく本を開いてみる。
端の方には小さな絵が描いてある。それで話を追ってみようと読み進めていたとき。
突然、眠気が襲ってきた。
「あれ……何だか、眠…く……」
ごしごしと眼をこする間にも頭はぼんやりと霞がかかったようになって。
ひやりと冷たい畳に体を預け、僕は意識を手放した。
***
「あれ、ここどこ…?」
気がつけば、僕は見知らぬ場所に立っていた。
鬱蒼と茂る森の中。光すらも入ってこない、暗い場所。
唐突に僕は悟る。
これは夢なんだと。
最後に僕がいたのは土方さんの部屋だし、現実的に考えてこんな知らない場所に来るはずがない。
だったら。
少しくらい探検してみるのも悪くない、僕は腰に刀があることを確認すると、ゆっくりと歩きだした。
***
仕事を終え、自分の部屋に戻ってくる。
襖を開けると、見慣れた姿が目に入った。
「…総司!」
床に横たわるその姿に嫌な予感を覚え、駆け寄る。
若干の焦りを感じながら顔を覗き込むと、総司は眠っているようだった。体を丸め、少し寒そうにしている。
「……ひやひやさせんじゃねぇよ…」
ほっとすると同時に、どこか違和感を覚えた。
人の気配に聡い総司は、俺が帰ってきたら目を覚ますはず。
「…総司、総司!起きろ!」
不安を覚えてその体を揺する。だが総司は何も反応しない。
「…総司!!」
ふと総司の傍らに、見覚えのない本が落ちているのが目に入った。
やけに立派な装丁が施されたその本は、少なからず俺に胸騒ぎを覚えさせる。
…今は総司のことが先決だ。
その本をどこかにやってしまいたいという衝動を振り払い、俺は人を呼ぶため部屋を出た。
人柱アリス