とある日のお茶会
(例えば頬に触れたりだとか軽く髪を撫でたりだとか)
(自分から取っているそういう類のものでも)
(彼にされるのは真剣に困る…何ででしょうね)
【とある日のお茶会】
午後3時。
私は隣でふわふわと揺れる黒髪を撫でながら過ごしている、それは何の変わりもないいたって平穏な時間だといってもいい。手持ち無沙汰に開いた時間を埋めようと彼の好きなケーキを買って部屋を訪れたのがつい先程の話。
気持ち良さそうな癖っ毛についついかなりの時間触れてしまっていたのが原因か、ふとそれまで黙っていたギルバートが不満気に溜め息をついた。
「…いい加減止めろ、お前はオレの髪を触りにきたのか?」
「いえ、時間が開いたので鴉とお茶でもしようと思いまして」
撫でる手を頭から離し訪れた目的を告げると、オレとお茶しにきた癖に髪ばっかり触るな、なんて少し頬を染めながら言うところが可愛らしい。テーブルに用意される紅茶、買ってきたばかりのケーキを取り出した彼を見て自然と笑みが零れた。
「すいませんねー、つい触りたくなるんですヨ。気持ち良さそうな黒髪だからネェ」
意味深いような口調で軽くからかってやると当然のごとく目を逸らされる。
「…ッ、もうその話はいい。紅茶淹れたから早く食べろ」
「ハイハイ、では―」
いただきます
目を伏せたまま自分で淹れた紅茶を飲み始めた彼に促されケーキを口に運んだ、生クリームのふわりとした甘さが広がる。
しばらくその甘さに舌鼓をうっていると何故か金色の瞳に眼が合った、熱心にこちらを見ている彼に首を傾げる。
「何ジロジロ見てるんですか?視線が気になりマス」
「あ、いや…お前は本当にうまそうに喰うな、って思って―」
美味しそうに食べる、そんな事を言われるとは心外だった。ただ食べたいから食べていただけなのだが…
「そうですかー?」
別に普通だと思う、そう続けようとしたのと同時にふと伸びてきた腕が私の言葉を遮った。長く細い指が唇をなぞる、いきなりあてがわれた指の感触に思わず眼を見開いた。
一体何が起きたのか、そもそも何故あんな事をされたのか…固まったままの私とは逆にギルバートの様子は変わらない。
「クリーム、口の端についてたぞ」
なぞった指の腹には白い生クリーム、それを舐めとりやっぱり甘いなと呟いた。だんだんと飲み込めてきた状況に違和感を感じ頬に熱が集まる。
「何だか酷く…恥ずかしいんです、けど…」
指で口元をなぞられただけだというのに…情けない、自分からいつもやっている事が貴方にされるとどうしてか調子が狂う。
「お前だっていつもやってるだろ?」
なのにオレがしたら変なのか、無意識に追い打ちをかける彼を黙らす為強引にその体を引き寄せた
とある日のお茶会
(平穏な午後の時間)
(たまにやられる無意識な行動に)
(一番弱いんですから)
【Fin】