ある昼下がり。
穏やかな日差しがゆったりと降りそそぐ、そんな時間。
土方は漆黒の髪をなびかせ、屯所の長い廊下を歩いていた。
その顔に浮かぶのは、ほのぼのとした気候には似つかわしくない苛立ちの表情。
「どこにいやがる…!?」
彼は人を探していた。
原田である。
今日は非番の彼にちょっとした用事を頼もうと思い、部屋を訪れてみたところ、部屋はもぬけのからだった。
中庭、台所、大広間と考えられるところは一通り探してみたが、それでも見つからない。
大した用事ではなかったが、ここまで見つからないと、何が何でも見つけてやるという気持ちになってくる。
そんなわけで、彼は一部屋一部屋見て回っていたのだが、原田は一向に見つかる気配がない。
それどころか、原田以外の幹部にも会わない。
昼間から島原に行っているのかもしれない、という考えも浮かんできて、土方の苛立ちが最高潮に達していたとき。
見覚えのある色が視界の端に移った。
視線を向けると、開け放たれた障子の向こう側に縁台が見える。
怪訝に思って近づくと。
まず初めに見えたのが、新八のがばりとだらしなく投げ出された手足。
その大きな体に隠れるようにして平助がちょこんと体を丸めている。
斎藤と総司は互いの手を握りあって寄り添い。
その傍らには柱に寄りかかり腕を組んでいる原田が。
一様に、その瞳は閉ざされていて。
「ったく…幹部が揃いも揃って…」
一瞬呆然とした土方の顔に次に浮かんだのは苦笑。
『人斬り集団』と恐れられている新選組の要たちが、子供のように眠っているのである。
先ほどまでの苛立ちは嘘のように消えた。
そういえば最近は隊務に追われてばかりでちゃんと休む時間もなかった、と思いを巡らせる。
縁側に腰を下ろし、それぞれの寝顔を眺めた。
懐かしいような光景に、自然と笑みが浮かんでくる。
その安らかな寝顔と穏やかな日差しに、
土方は知らず知らずのうちに意識を手放していた。
「あ…」
「どうした?雪村君」
とても珍しいものを見たような気がして立ち止まった千鶴に、山崎が怪訝そうに声をかけてくる。
「あれ……」
追いついてきた山崎に、目の前の光景を指差す。
「あぁ…」
彼女が立ち止まった理由に納得がいった、という顔で彼は微笑を浮かべる。
「最近忙しかったからな…副長たちもお疲れなんだろう」
そっとしておこう、そう言って彼らを見つめる彼の表情はとても穏やかで。
「…はい!」
千鶴も笑顔で頷いたのだった。
変わらない、
(それは)
(いつまでも変わらず)
(そこにあるもの)