「シズちゃん!」
放課後の教室。
机に突っ伏していた静雄は、相変わらずうっとうしい天敵の声に顔をあげた。
「……何だよ」
不機嫌さを隠さない声音での返事も意に介さず、にこにこと笑う彼は全く意味の分からない一言を発する。
「早口言葉対決しよう!!」
「………は?」
さすがの静雄も驚きを通り越して呆れ、あぁこいつもついに頭がおかしくなったか、いや頭がおかしいのはもとからか…などと考えているうちに近くにいた新羅に審判を頼んだ臨也は、準備万端だというように笑いかけてくる。
「じゃあいくよ、準備はいい?」
理解が完全に追いつかないうちに臨也はよく分からない早口言葉を驚くほどの滑舌の良さで唱える。
「こ棚のこ下のこ桶にこ味噌がこあるぞこ杓子こもってこすくってこよこせ!!」
それでも静雄は反射的にそれを繰り返し唱えようとする。
「こだなの…こみそが…?」
長い上に言いにくい早口言葉に四苦八苦していると、臨也が笑う。
「…うん、やっぱりシズちゃんはお馬鹿さんだね」
「っ、いざやあぁ!!」
知ったように頷く臨也にカチンときた静雄は、椅子を蹴って立ち上がる。
そのまま走り出した2人が去った教室。
「…あいつは一体なにがしてぇんだ」
「…さあ?」
そこには校庭で怒涛の戦いを繰り広げている2人を窓から眺め呟く門田と、肩をすくめその呟きに答える新羅がいた。
早口言葉
(臨也は何かしようと思ってあんなことしてるわけじゃないと思う)
(ただ静雄を困らせたいだけなんじゃないかな)
(…なるほど)