「あれ?そんなとこに座り込んで何やってんの?」
「あ…レンレン」
目眩を感じて階段の横に座っていた夏目は、聞き慣れた声に顔をあげた。
風呂上がりらしい反ノ塚がこっちに向かってくるのが見える。
「別に〜?ちょっと考え事してるだけだよ☆今度は渡狸に何をやってもらおうかなって」
余計な心配はかけたくない。
夏目はとっさに思いついた言い訳を口にする。
そっか、と笑った彼は夏目の隣に座った。
しばらく雑談を交わしたあと、彼は立ち上がった。そして夏目の方を振り返る。
「オレはそろそろ部屋に戻るけど、お前はどうする?」
「僕もそろそろ戻ろうかな〜」
「そうか。じゃあ、ほら」
そう言うと彼はにこりと笑って夏目に向かって手を差し伸べてくる。
「え…?」
「なんとなくやってみたかったんだよな、こういうの。」
差し出された手と反ノ塚の顔とを交互に見ていると、彼は笑ってつけたした。
ほら、漫画とかでよくあるじゃん?座ってるやつに手を差し伸べるの。
そう、彼は続ける。
よかった。
夏目は息をついた。
一瞬、気づかれたのではないかと思った。
そして夏目は素直にその手を取った。
「じゃあ、僕はここで。」
渡狸の部屋の前で夏目は足を止める。
「あぁ…おやすみ。また明日なー」
ひらひらと手を振り、歩きだした反ノ塚。
三歩ほど行ったところで彼はくるりとこちらを振り返った。
それから―、
あんまり無理するなよ?
それだけ言うと彼は後ろ手を振って今度こそ去っていった。
夏目はその後ろ姿を呆然と見送る。
そして、くすりと笑った。
気づかれていた。
彼はちゃんと気づいてくれていた。
心配はかけたくなかったのに、気づいてくれたことが何だか嬉しかった。
「もう…気づかれないようにしてたのに」
ぽつりと呟き、彼はもう一度微笑みを浮かべる。
そしてゆっくりと自分の部屋に向かって歩き出した。
心配+強がり=