コンコン。
少し控え目なノックの音が聞こえた。
読んでいた参考書から目をあげる。
どうぞ、と返事をすると、中に入ってきたのはお盆を持った双熾だった。
「このところ、勉強を頑張っていらっしゃるようでしたので…」
でも、頑張りすぎるのもよくありませんよ?
そう言って彼はお盆にのっていたマグカップをことりと机に置く。
ほんのりと甘い香りを放つそれは、ココアのようだった。
「あいつのことばっかり見てると思ってたけど、違うんだな」
ありがとう、とマグカップを持ち、素直に思ったことを口にしてみる。
あいつとはもちろん、凛々蝶のことだ。
それを聞くと彼は笑った。
「そんなことありませんよ。僕はみなさんのことを見ています。あなたは凛々蝶さまのお兄さまですし、ここにいる方はみんな凛々蝶さまの大切な人ですから―」
そういってふわりと笑った彼に笑みを返す。
彼のことが少しわかった気がした。
「さて…と。もうひとがんばりすっかな」
彼が出ていったあとの部屋。
なんとなく満ち足りた気分で、再び参考書に視線を落とした。
彼の本音