「渡狸、辞書貸してー」
反ノ塚が、渡狸の教室の扉をガラリと開けたのは昼休みのこと。
渡狸はちょうど、クラスメイトと話していたところだった。
カタギではないという噂がある反ノ塚の登場に、一瞬、教室内のざわめきが消えた。
そういえば、2限が終わった頃にメールが入っていたことをぼんやりと思い出しながら、渡狸は辞書をもって教室の入口へ向かう。
チラチラと背中に飛んでくるクラスメイトの視線がすこしうざったい。
「ん、これだろ?」
「そうそうコレ、ありがとなー」
なんとなく気恥ずかしくて、つい素っ気なく目的のものを手渡す。
にもかかわらず、反ノ塚は笑顔でそれを受け取った。
「じゃあ、後で返すなー」
自分の教室へ戻っていく反ノ塚を見送って、自分の席につく。
すると、待っていたのはクラスメイトの好奇心旺盛な質問。
「なぁなぁ、反ノ塚先輩と知り合いなのか!?」
「前も廊下で話してたよな?」
そんな質問の数々に、マンションが同じなんだとだけ返して、渡狸は目を逸らす。
反ノ塚と普通に話せるのを意外に思われることが、渡狸は少し悔しかった。
彼のことをカタギじゃないだとか怖いだとか誤解されていることもそうだが、何より渡狸自身が不良として認められていないような気がした。
いつか絶対越えてやる、改めてその決意を固め、渡狸は拳を握りしめた。
平等な存在
(はやく)
(おまえとつりあう)
(不良になってやる!)