一口ずつ、ゆっくりとお粥を飲み込んでいく。
時折強い吐き気が襲ってきて、おいしいはずのお粥なのに味がわからない。
時々咳込んでしまう渡狸の背中を、夏目は黙ってさすってくれた。
ようやく一杯食べ終わり、息をつく。
薬を水を手渡され、それを飲み終えれば、渡狸の体からは力が抜けた。
倒れ込むようにベッドに逆戻りした渡狸の体にしっかり布団をかけ、夏目は立ち上がる。
「薬も飲んだし、あとはゆっくり休むこと」
僕はちょっと片付けてくるから、と食器をもって夏目はキッチンの方へと姿を消した。
食べたからなのか薬を飲んだからなのか、だるさとともに眠気が少しずつ渡狸を襲う。
布団の心地好さもあいまって、渡狸は目を閉じる。
いつの間にか、渡狸は意識を手放していた。
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食器を片付け、急いで渡狸の部屋に戻ってくると、渡狸は寝息を立てていた。
熱のせいなのか、赤い頬に心が痛む。
ベッドの脇に椅子をもってきて座った。
少し苦しそうに呼吸する渡狸の頭をそっと撫でる。
髪を梳いて、額に手を当てた。
伝わる熱さで、彼の熱がまだ高いことを理解する。
「…雨に打たれて風邪引くなんて、ほんとにおバカなんだから」
渡狸に聞こえているわけでもないのに、夏目は呟く。
それは、夏目の本音だった。
心配されることが当たり前だと思っているくせに、自分が周りにどういう点で心配をかけているかわかっていない。
まあ、それが彼のいいところでもあるのだけれど。
「早くよくなってね…?」
眠る渡狸の幼い寝顔に笑みを浮かべる。
おやすみ、と夏目はもう1度彼の頭を撫でた。
ほんの少しの期待
(眠りに落ちる前に思ったのは)
(目覚めたとき)
(君が傍にいたらいいということだった)