「……吐きそ…」
メゾン・ド・章樫、1号室。
渡狸は、ぐったりとベッドにうつぶせていた。
「天気予報が雨だったのに、傘持ってかないからだよー」
「るせ…」
呆れたような夏目の声が聞こえる。
そう、渡狸は風邪を引いて寝込んでいたのだった。
昨日の学校の帰りに雨に降られ、今日の朝には鼻水が止まらなくなっていた。
風邪を引くなんて不良らしくない、と悶々としていると、夏目が枕元に立った気配がした。
だるい体で寝返りをうち、薄目を開ける。
案の定、そこには湯気の立つお粥とおさじを持って、渡狸を覗き込む夏目がいた。
「お粥。食べれる?」
そう問い掛けてくる夏目に、ゆるゆると首を振った。
一瞬困ったような表情をした夏目が、お粥をサイドテーブルに置く。
そして渡狸の額に手を当てた。
ひやりとした冷たさが心地好い。
「…やっぱり、熱高いね…」
そう言って、夏目は眉をひそめる。
「食欲なくても、何か食べないともたないよ?」
そう言った彼の表情には、心配がありありと表れていて。
渡狸は頷くしかなかった。
ふらつく体を夏目に支えられ、なんとか起き上がる。
「はい、あーん」
そして夏目は、少し冷めてしまったお粥を掬って、渡狸に食べさせようとする。
「じ、自分で食べる!」
「そんなにふらふらしてるのに?」
任せておいた方が楽だと思うよ、と微笑を浮かべられ、為す術もなく渡狸は口を開けた。
あまのじゃく
(いつもは)
(からかったりしてるけど)
(ほんとは心配なんだよ?)