short story | ナノ

すらりと構えられた番傘を、突き刺すようにこちらに向けて少年は爽やかに笑った。
静かな夜だった。
真ん丸の月が水面をゆらゆらと照らし、きらきらと宝石のような光が反射する。
月ってこんなに明るかったのかあなんて暢気なことをさっきまで思っていたりもしたが、その思考は突然の来訪者によって中断された。
それは過去に一度だけ顔を合わせたことのある少年。
彼の妹と同じ薄紅の髪は、ゆるやかな月光を受け淡く光る。
「…よぉ、奇遇だなァ」
普段なら決して会うことのない人物、むしろ会ってはならない人物がすぐ目の前にいる。
それだけ二人が暮らす環境は違っている。
それがたった今、こうして二人の道は再び交わった。
次に会う時、きっと俺はいろいろなものを覚悟しなければならないだろう。
そう思ったのはいつの頃だったか。
何をしに来たのか、推し量るまでもなく明らかだ。
「やぁお兄さん、殺しに来たよ」
少年の口から放たれた言葉は、物騒ではあるが予想通りだった。
いつの間にかじとりと湿っていた手の平を、己の得物に忍ばせた。
一瞬の隙でも見せようものなら、その刹那、俺はもうこの世にはいないだろう。
俺の緊張感とは裏腹に、少年は随分と涼しげな顔で、俺が武器をとるのをじっと見ていた。
「俺ね、はじめて会った時からあんたを殺したくて殺したくて堪らなかったんだ」
「……」
突然放たれた言葉に俺はどう反応していいのかわからなかった。
「それで阿伏兎が言うにはね、あ、阿伏兎ってオレの部下なんだけど、そいつがね、誰にも渡したくないって思うならそれは恋というものだ、なんて言うからさ」
「………」
「それで気付いたんだ。他の誰にも殺させたくない、だから俺が殺す。つまりこの独占欲は、恋なんだろうなって」
「………」
開いた口が塞がらないとはこの事か。
まさかの衝撃の告白に呆気にとられる。
命の危機であることすら忘れそうになった。
「いやいや、ワケわからん」
「そう?」
悪びれる様子なんて微塵も見せないで、少年は小首を傾げた。
「つまりはあんたに恋しちゃったってことなんだけど…」
「……は?」
「本当は、もっと後の楽しみにとっておこうって思ってたけど、人間って弱いからいつ死んじゃうかわからないでしょ?だから来ちゃった」
「……っ!」
言い終わると同時、不意に突き刺さるおぞましい殺気を感じて、ざわっと背筋が粟立った。
忘れかけていた緊張感を取り戻す。
言動の温度差に惑わされそうになる。
言っていることはまったく理解できないが、殺しに来たというのは事実なのだ。
「さあ、はじめようか」
そう笑って言う少年は、まるで戯れるように軽やかに宙を舞った。

2012/1/16



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