short story | ナノ

「呆れた…また喧嘩なの?」
妙は校舎裏で伸びている銀時を見やるなり、ため息を溢さずにはいられなかった。
鬱蒼とした場所でもその白銀の髪は随分と目立つ。
銀時が授業をサボる度に、妙は委員長としてこうして銀時を探す役目を負う。
声をかけられた銀時は、ちらりと妙に視線を移したが、動く様子は見せなかった。
そこかしこに見える傷や痣は実に痛々しい。
「まったく、どうしていっつもこうなのかしら?」
銀時の横に腰を下ろして妙は再び溜め息をついた。
同じクラスになってから妙の溜め息を幾度となく聞く羽目になった銀時は、少し苛つきながらやっと口を開いた。
「俺じゃねぇ、あっちが先に売ってきたんだ」
銀時はそう言ってふいと顔を反らす。
「買わなきゃいいじゃない」
「そんなの男じゃねぇ」
「くだらないプライドだわ」
「女にゃわかんねぇよ」
この問答も何回繰り返したか。
俺だって別に喧嘩が好きでやってる訳ではない、と銀時は心の中で叫んだ。
勝っては負けて、負けては勝って、終わることのない連鎖に銀時もいい加減うんざりしていた。
それでも終わらせられないのは、自分がひどく負けず嫌いだからだということは承知している。
「六年のくせに、数で勝負しやがって…」
本当に悔しそうに言う銀時を見て、妙は頭を抱えそうになった。
男の子という生き物は理解に苦しむ。
何度そう思ったか。
「…本当に呆れた」
そう言うなりポケットから絆創膏を取り出す。
「じっとしててね」
妙はいかにも痛々しい箇所にそれを貼っていく。
銀時はされるがまま、妙の手が止まるのをじっと待った。
はじめの頃は恥ずかしくて情けなくて随分と抵抗したが、そうするともっと酷い目に合わされるということを銀時はこの数ヶ月で身をもって知らされた。
学校では荒くれ者で通っているが、この女だけは苦手だった。
「あとでちゃんと保健室で看てもらったほうがいいわ」
妙はパシンと銀時の腕を叩くと、気が済んだのかすっと立ち上がった。
「もう喧嘩なんて止めてよね」
そう言ってくるりと背を向けて歩き出した。
毎回飽きることなく探しにくるのに、どうしてか無理やり教室に連れ戻そうとしなかった。
何を考えているのかわからない。
そこも苦手なところの一つだった。
「…あいつらはこの髪の色が気に入らねんだよ」
気が付いたらそう愚痴っていた。
言ってしまってから銀時は自分の言動にひどく驚いた。
どうしてこんなことを言ってしまったのか。
これではまるで引き留めているみたいだ。
銀時が心のなかで一人慌てていると、振り返った妙はきょとんと首を傾げていた。
「あら、私は羨ましいわ」
「……あ?」
予想外の言葉に、銀時は呆然とした。
羨ましいと言われたのは初めてだった。
教師や上級生を含め、この髪のせいでどれだけ絡まれたか知れない。
そんな銀時の胸中を知らない妙は、凛と通る声で言いはなった。
「だってきらきらしてて、宝石みたいだもの」
「………」
「女の子はね、可愛いものとかキレイなものが大好きなのよ」
そうにっこりと笑う姿に、銀時は目が離せなかった。
チャイムが鳴ってふと我に帰る。
「委員長が女の子って、ゴリラの間違いじゃ…」
「ふふ、なにか言った?」
銀時の言葉に、笑顔のまま拳を握り締める妙。
銀時の背筋がぞっと凍った。
「…なんでもない」
「あらそう」
涼やかにそう言って、妙は今度こそ立ち去っていった。
「………」
銀時はどうにも落ち着かない気持ちのまま、その後ろ姿を見送った。

2012/1/14



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -