short story | ナノ

「これは?」
これから行為に及ぶと言うときに、この女は何を言っているんだろうと思う。
窓から覗くわずかな光しかこの空間を照らすものは無いというのに、妙は感触だけで腹の縫い傷をその細い指でなぞった。
「前会ったときはなかったわ」
冷たい声音で、ひたすら傷をなぞる。
そんなもの知ったことかと俺は手を休めない。
女を包んでいる布をまた一枚剥いでいく。
それでも女はなぞることをやめない。
そればかりか、胸の傷、腕の傷にその手は伸ばされていく。
「おい、何がしたいんだ?」
さすがに無視できなくなり俺はやっと手を止めた。
「また増えた…」
「そりゃあ、そういう仕事だからだ」
うるさい口をふさぐようにその唇に触れた。
女はそう、とだけ呟くとなぞるのを止めた。
そのかわりにまっすぐ俺を見据える。
薄暗くて見えないはずなのに、その瞳には悲しみが色濃く表れていた。
「あなたは私の大切なものを蔑ろにするのね」
そろりと伸ばされた手は俺の頬にそえられた。
「……」
言葉に詰まった。
どうしてか、無性に目の前の女が愛しくなる。
まるで女の悲しみを吸い取ったみたいに目頭が熱い。
「…わりぃな」
そう呟くと妙はふいと顔を背けた。
機嫌を損ねた妙は何かを堪えるように目を閉じる。
「……」
そんな彼女の顔を無理矢理にこちらに向かせて、舌を咥内に捩じ込んだ。
抵抗されるも卑猥な音が部屋に響く。
がりっと脳髄に刺激が走りった。
舌を噛まれたみたいだ。
なんて強情な女なんだと呆れるが、俺は止めることはしなかった。
お前の言いたいことはわかったけど、それでも俺は絶対に刀を握ることを辞めないだろう。
こっちにだって譲れないものがあるのだから。
「あなたって本当に馬鹿だわ」
「…いいから黙ってろ」
きっと俺たちは一生互いの想いに応えられないに違いない。
求めるものが違いすぎる。
それでも一生のうちのたった一時だけでも共に歩めたらと思う。
まるで夢物語だとわかってはいるが。




2007/9/22
title:Candy Crown



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