short story | ナノ

「銀さんって善くも悪くも器用ですよね」
冬の午後。妙は茶を啜りながらそう言った。
こたつに寝そべっていた銀時は、その冷ややかな物言いに少し驚く。
思わず開いていた雑誌を閉じその顔を凝視する。
怒らせた覚えはないし、悲しませた記憶もない。
けれど何の感情も読み取れない妙の表情に、ただごとじゃない何かを感じ取った。
「どしたの?急に」
「どんなに悲しいことや苦しいことがあっても、なんやかんやで整理をつけて前に進んでいくんだわ、そうでしょう?」
そう真顔で問い掛けられる。
静寂に包まれた空間。
逃げることを許さない視線にも、凛とした美しさを感じ取ってしまうのは惚れた弱みだろうか。
「お前…なんか変だぞ」
「そんなことありません」
彼女はまた一口、茶を啜る。
本当に意味が解らない。
ただ淡々と話す彼女がとても奇妙に思えた。
「じゃあ俺も言わせてもらうが…」
体を起こし正面から見据えると、その線の細さに思わず息を飲んだ。
今日は本当に変だ。
彼女を縁取る輪郭がこんなにも頼りないなんて。
「お前は善くも悪くも不器用だよな」
先程の妙の言葉を借りる。
「一度決めたことはてこでも曲げねぇ。誰にも頼らないで全て一人で決めて生きていくんだ、そうだろ?」
そう投げかけても妙は顔色一つ変えない。
全く動じないところを見ると自覚しているということか。
妙は何かを諦めたように深いため息を吐き「それなら…」と呟いた。
「こんな二人が一緒にいても虚しいだけだと、そうは思わない?」
視線を反らせて彼女は俯く。
伏せた睫毛の影が落ちる。
「そう、なんだか急に虚しくなった…それだけよ」
手に持った湯呑みを見つめながら妙は言った。
そうか。虚しさ、か。
銀時は頭の中でその言葉を反芻し、そして思わず吹き出した。
一人で突っ走って出た答えがそれか。
まったくもってお前らしいよ。
「俺は逆だよ」
視線が戻ってくる。
「…?」
「こんな二人だからこそ一緒にいる価値があると、そうは思わないか?」
諭すように言う銀時の言葉は妙にはどう届いただろう。
彼女はただ黙っている。
何事もほどほどが一番いい。
両極端な俺たちだからこそ、互いの癖がアクが擦り合わさって中和されてちょうどよくなると思うんだ。
そう言うと妙はしばらく沈黙した後
「…それもそうね」
と微笑んだ。
擦り合わさって中和されてその結果何が生まれるのかまだわからないけれど、それは時間をかけてゆっくりと知ればいいことだと思う。
時間はたくさんあるのだから。
「さてと、とりあえず」
ゆっくりと手を伸ばす。
「こっちおいで」
そう言うと彼女は目を白黒させた。



2010/12/18



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -