short story | ナノ

「ほんと今日は最悪な日でさァ、土方さんのせいですぜィ」
「…なんでだよ」
数人の男たちに囲まれたこの状況を、人のせいにされては堪ったものではない。土方はそう思った。
日が暮れ、屯所への帰路につく途中を狙われたようだ。
何事か、彼らに問うまでもなく明らかだろう。その手には刀が握られている。
「幕府の犬が!貴様らには此処で死んでもらう!」
毎度のことながら彼らは飽きることなく聞き慣れた言葉を吐いていた。
しかし何度も言われ続けた言葉に、いつも以上に苛立ちが込み上げる。
安い挑発に乗るほど愚かではないが、このタイミングで現れた彼らは邪魔者以外何者でもなかった。
「ですってよ土方さん。つー訳で死んでくだせェ」
「おいコラ、なにこの機に乗じて俺を亡き者にしようとしてんだよ」
加えて今一緒にいるのがよりによってコイツなのだから面倒な事この上ない。
「ちっ、なんだってこんな日に…!」
土方は吐き捨てた。
今日が自分の誕生日だから、とかそんな可愛い理由ではない。けれど無関係でもない。
毎年この日は総悟の嫌がらせが三割増になると決まっている。
それで俺は朝起きてから今に至るまで命を狙われ続けたものだから正直疲弊しきっていた。
「うわー、結構数がいますねェ」
「…手間取りそうだな」
ざっと数えてみると三十は越えていた。
こっちは二人。
数の上では劣勢だが、負ける気は更々しない。
しかし、すぐに帰れる訳でもないだろう。
「…っ」
無意識に舌打ちをする。
これじゃあ今日の宴会には間に合いそうにないな。土方の眉間に皺が寄った。
毎年近藤さんが、俺に秘密で宴会の準備をしていることは知っている。
この歳で誕生日を祝われても正直気恥ずかしいだけなんだが。
こいつらを片付けて、諸々の事後処理を終える頃にはすっかり夜も更けるだろう。
きっと間に合わない。
友の気遣いを無駄にすることがなにより悔しかった。
(すまねぇ近藤さん)
浪士たちが刀に手をかける。
土方も腰に手を伸ばした。
じりっと土を踏み締めると高まる緊張感。
その時、沖田は言葉と共に刀を抜いた。
「ちゃっちゃと終わらせちまいましょう土方さん。後始末を山崎にでも押し付けりゃあまだ間に合いまさァ」
俺も近藤さんの悲しむ顔は見たくねェですし。
そう言った沖田の言葉を皮切りに浪士たちがなだれ込む。
土方は振りかかった刃を己の刀で受け止めて横に凪いだ。
沖田の言葉に不意をつかれ危うく体勢を崩しそうになったがなんとか立て直す。
「総悟!てめっ…」
言い終わらないうちにまた敵が突進してくるのが見えた。
会話する暇さえ与えてはもらえず、敵は無遠慮に攻め込んでくる。
躱わすついでに腕を一本切り落とす。
しょうがない、今は目の前の敵に集中しよう。
向かってくる男に刀を突き付けた。
その時、背後からまた聞こえたのは奴の声。
「仕方ねェんで今日だけは守ってやりまさァ、感謝しなせぇ土方さん」
同時に後ろから敵の叫び声が聞こえた。
今度は不意をつかれなかったがやはり予想外。
何言ってんだ、今まで散々命を狙ってきたのは何処のどいつだ馬鹿野郎。
緊張感の欠片もないその言葉に思わず笑いが込み上げた。

「ふざけんな、テメェに守ってもらうまでもねぇ」



2009/5/5



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