第三章 新たな使命

取り残された雪は、寝乱れた頭を少し乱暴に掻きながら深くため息をついた。井宿が言うように、確かによくよく考えれば大役なのである。

いや、そんなことは薄っすら分かっていたのだけれど……身近な人間から言われると余計に考えてしまう。結局は無意識に知らん顔をしたのだ。

きっと神様というやつはみんなあんな物言いなんだろう、少し騙された気分だ。――太一君が何か分かっているかもと思ったのだが、井宿がいないことには大極山へ赴く術はない。

「うーっ……どうしよう」

布団を抱き締めて、なかなか起き出す気になれず唸る。

「おぉーい、井宿ぃー」

扉の向こうから、陽気な男の声がする。思わず身を固くした雪は、ぐるんと扉に背を向けて布団を再び頭まで被った。

「ああ?まだ寝とんか?珍しなあ」

扉くらい叩けないの!?――と叫びたかったのだが、まさか真っ先に開けるとは思わなくて、予想外の出来事に声が出なかった。とにかく無言のままやり過ごしたい、起こそうとせず諦めて立ち去ってほしい、それだけだ。

「井宿、えらい縮ん……」

相変わらず雪は黙ったまま息を潜めていたが、とうとう布団の上から手が触れて、はらりと覗いた長い黒髪に翼宿の声が詰まった。

「そ、そういう悪い冗談は……も、もう騙され、騙されへんぞ……!」

「意味わかんないこと言わないで……」

「わーっ!本物かいな!」

翼宿が咄嗟に飛び退いて、椅子に尻をぶつけている。

「あいたたた……すまん、まさか雪がおるなんて思わずやな。てかお前ら、一緒に寝とんか?どんだけ離れたないねん」

「……放っといてください。井宿に何か用だったの?さっき星宿の所に行ったよ」

言いながら半身を起こして、まるで何もなかったかのように欠伸をひとつ。

「あ、せや。鬼宿に会うてびっくりしてもうてなぁ……雪に会うて帰る言うとったから、起こしたったらどやーって井宿に言いに来てんけど」

「あ……ああ、」

聞かされていると答えようとしたそこへ、丁度よく井宿が帰還する。彼は室内の様子に一瞬だけきょとんとしたが、すぐに表情を戻した。

「だ。何してるのだ翼宿は」

「あー、っと。たまの件でな?」

妙に濁すような口振りに井宿は眉をひそめたものの、特に咎めることなどもなく星宿に報告が済んだことを知らせてきた。

星宿もやはり朝食の席で、詳しい話をしたいという。

「用は済んでるし、鬼宿はもう食堂にいると思うのだ」

「じゃ、私らも行こっか」

「せやな。で、報告とか話とかって何や?ついに祝言でも挙げるとか」

「……それだったらどんなにいいか」

頬をひきつらせた井宿に、苦笑いの雪、それから空気を読めずに首を傾げた翼宿の三人は、まさに三者三様で、ゆっくりと食堂へ向かった。






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