第十五章 道を間違えたなら

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「あーっ!何や苛々する!」

両拳で机を叩いた翼宿は、その反動で立ち上がって食堂内を意味もなくうろつき始めた。何も知らなければまるで小用を我慢している人のような動きだ。

毎度ながら落ち着きがない。

「あんたまた一人で騒いで。……何がよ、うるさいわね」

「分からへん、でもなんかこう……喉につっかえるみたいな!胸の中が痒いような!いやーな予感がすんねん!」

「虫の知らせってやつか?」

「どっちかっていうと、動物的直感でしょ」

柳宿と鬼宿は退屈そうに頬杖をつき、視界を端から端まで行き来する翼宿を目だけで追っていた。張宿はその隣で難しい顔をしたまま黙り込んでいるし、星宿は何やら忙しいようで姿も見えない。

「なあ張宿。お前はどう思うよ?」

「……僕も、嫌な予感しかしません」

手元の古そうな書物と、星宿から預かっているという報告書を指先で触りながら、張宿は続ける。その内容を十分に理解できる者は、ここでは彼くらいのものだ。

「僕達には想像もつかない何かが起きるかもしれません」

「それ、どういう意味だ?」

「分からないんです。……だから怖くて」

胸元を握り込んだ張宿を一瞥して、翼宿はようやく足を止めた。

「相手は生身の人間とちゃうねん、心宿よりよっぽど性質が悪いわ。しかも井宿と因縁あるっちゅー要らんおまけつきやからな」

「それだよなあ。あの様子だと相当きついだろうぜ」

「多分……井宿は戦えへんやろ」

いっそ決着をつけさせたいところだが、出来たらそんな相手とは戦わせたくない……という感情も混ぜながら、翼宿はどうしようもない悔しさを滲ませる。

「それは気持ちの問題?それとも身体の問題?」

「どっちもやな」

考えは皆同じなのだろう、一様に黙り込んでしまった。

「井宿さんは、一体どれだけ辛いでしょう。あの人の事だから、まだ一人で背負い込もうとしてるに違いありません。雪さんだってきっと。僕に何か出来ることは……」

張宿が、涙声で呟く。同時に軫宿が何処かから戻ってきて、この重苦しい雰囲気に肩を竦めていた。

「あいつは仲間に恵まれてるな」

「俺は井宿の為とちゃうぞ」

「はいはい、好きなだけ言ってなさい」

翼宿が本心を口にしないのは今に始まった事ではない。そもそもあの夜の一件があった後で、よくもまあそのような強がりを言えるものだ。

「ともかく、井宿の助けは絶対に必要だろ。俺らは井宿が回復すんのを待って――」

「申し訳ありません、皆様!!」

扉を破るようにやって来たのは、額にびっしょりと汗を浮かべた一人の兵士だった。







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