*第十四章 邂逅と選択
「井宿!」
扉を叩く音で我に返り、再び身体が強張った。これだけの荒天で外まで聞こえるほど、井宿は大声をあげていたらしい。
「どないしてん、おいっ!開けるで!?」
「来るな!」
怒鳴るような声に怯んだのか、音が一度途絶える。だが、そんな事を言われて逃げるような男ではないことも重々承知していた。
実際、次の瞬間には異常を察知した翼宿が扉を開け放っていた。
「……誰や、お前は」
飛皋を見るなりそう言い放つと、あの鋭い目つきで飛皋を睨みつける。翼宿からすれば、飛皋は完全に異物だった。
「ああ、翼宿か。お前にもなかなか手こずらされたものだ。扱いやす過ぎるのが欠点だが……こうして一番乗りしてくるのを見ると、どうやら番犬としては優秀なようだ」
「……いきなり訳わからん品定めして、何のつもりやねん。つか、こんだけ騒いどきゃ誰だって気付くわアホ」
ありがちな嫌味で嘲笑われ、翼宿はより一層不快そうに眉根を寄せた。井宿は首を力なく左右に振りながら、それ以上飛皋があれこれ語らないことを祈っていた。
「もうひと押しだったなあ……『あの夜』は。お前も残念だったと思っているのではないか?まあいい、今はもう用無しだ」
「なんやと? ふざけんなや……アレはお前が仕組んどったんか!ほんまに何処のどいつや!井宿に何の用やねん!」
頼むから、もうやめてくれ。心の声は、腹の中でぐるぐる回るばかりだ。
「私は旱鬼・飛皋。そこにいる男は私の古い友人だ」
翼宿がぐっと息を飲むのが分かる。いくら鈍くても、じきに飛皋の正体に行き着くだろう。
そしてその予想は当たり、いつもより見開いた三白眼が井宿を呆然と見つめていた。
井宿は飛皋と、その肩越しの翼宿を見据える。
「やめろ……それ以上は」
ようやく言葉にすると、振り向いた飛皋の顔が下卑た笑みを浮かべる。
「己の悪事を暴露されるのは困る、と?」
「そういう事を言っているんじゃない……!」
喉から絞り出す掠れた声は、焦燥感をありありと含んでいた。だが今は過去に抉られることよりも、仲間達へ危害が及ぶ可能性を恐れていた。自分一人ではとても護りきれない。
翼宿も、雪も、他の七星士達も、この件には何ら関係ない。巻き込みたくないのに。
――次の瞬間、幾重にも重なる足音が、仲間の到着を知らせた。鼓動が早まり、目眩がする。
全ての元凶を作ってしまった気分だった。いや、実際にそうか。とも思いながら。大事な親友は自分のせいで、破壊神と成り果ててしまっているのだ。
「……ちょうどいい。仮面の下のお前がどんな人間なのか、大事なお仲間にも見せてやろうじゃないか」
「何を……っ」
それから飛皋が手を虚空にかざすのと、開けっ放しの扉の向こうに息を弾ませた七星士達が揃うのは、ほぼ同時の出来事であった。