第四章 月夜の笛

栄陽を出てから七日程が過ぎた……と思う。しかし軫宿を見つけてからというものの、最後の一人が見つかる気配が全くない。玉は全く反応せず、手がかりさえも掴めなかった。あてもなく彷徨うだけの日々である。

「あぁ……」

安宿で雑魚寝している仲間達の寝相の悪さを眺めれば、そんな旅でいかに疲れているかがよく分かる。ちなみに、ここまで彼らは野宿続きだった。

誰かの腕や足が体に乗ろうが、少しも目を覚まさないのだ。

……といっても井宿は、翼宿の猛烈な肘鉄で目を覚ましてしまったのだが。当の本人は気持ち良さそうに高いびきをかいている。

いずれにしてももう外は白みはじめて、そう時間もかからずに陽は昇るだろう。

体を酷使してきたのは分かっているので、この際二度寝してしまおうと思ったのだが……どうにも翼宿の寝相が悪すぎて怖い。

人間は横になって目を閉じているだけでも、ある程度の休息がとれると何かで聞いたのだ……と、少しだけ位置を変えて静かに目を伏せた。

「ぶぁあああ……!ああ、よぉ寝たぁ……」

――翼宿のそんな声が聞こえたのは、どれくらい経ってからだろうか。

ゆっくり瞼をあげれば、眩しい橙色の髪がすぐそばでわしわしと揺れている。やはり近くまで転がってきていたようだ。

「よく寝た……?そりゃあよかったのだぁ」

思わずはっきりした声で嫌味をこぼすと、彼は驚いたようにこちらを見る。

「なんや井宿、まだ寝とるんかと思っとったで。その顔どうにかならへんの?」

「…………。ずっと起きてるのだ……何でかって、君の肘打ちが何度も何度もオイラの頭を……」

「あ? ああ……そりゃすまんかったなあ!」

がはは、と豪快に笑うその頭を、隣から柳宿が思いっきり叩いた。

「うっさいわね!寝起きくらい静かにできないの!」

「なんやとオカマ!」

「だーっ、もう!朝っぱらから喧嘩するんじゃないのだっ」

宥める井宿をよそに、睨みあう二人。仲が悪いわけではなくて、たぶん柳宿の寝起きか虫の居所が悪いのだと思う。

が、そうこうするうちに雪と軫宿も騒動に気付いて起き出してきたので、もう彼らのことは放っておくことにした。






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